第22話 実験その2②

 その日の放課後、俺は澪と七瀬と校舎出入口で待ち合わせてから駅まで歩いて行く事にした。

 澪は昼休みに言っていた通り、俺と七瀬から50メートル程離れて付いて来るそうだ。


 七瀬は恥ずかしいのか腕は組まずに俺の服の袖を掴みながら一歩後ろから付いて来る。

 校門に向かうため校舎の脇を歩いていると、上から植木鉢が降って来た。

 またアイツか…俺のチカラ、クレアセンティエンス(危険察知能力)が発動し、植木鉢が落ちて来る事は解っていたので今回はキャッチせずに七瀬を伴って後ろに数歩下がり、地面に落として割ってやった。

 勿論破片は俺と七瀬に当たらない様にチカラを使う。

 上の階から


「おーい、済まない、大丈夫かー!

 おっ、また君かー、という事は植木鉢は無事かー?」


と男子生徒の声が聞こえたので、今日は流石に本音を言ってやった。


「バカ野郎、女の子に当たりそうだったぞ!

 いい加減、植木鉢の心配より人間の心配をしやがれ!

 そう何度も無事に植木鉢を回収出来るとは思うなよ!」


 この滅多に無いシチュエーションに七瀬は少し青ざめていたが、


「だ、大丈夫大丈夫!

 凪っち、次行ってみよー!」


と持ち直したため、俺達は再び歩き出した。

 しかしやはり怖かったのか、袖を掴まれていた俺の手はいつの間にか七瀬にしっかりと腕を組まれていた。



 是政橋を渡っていると橋の下の方からエンジン音が聞こえるので何事かと耳を澄ますとまた危険察知が働いた。

 どうやら河原で大人が遊んでいた大型ラジコン飛行機が俺達に突っ込んで来る様だ。

 突然橋の下から姿を現した大きなエンジン付きの白いプロペラ機が橋から遠ざかって行ったと思ったら急に反転して空から俺達に襲い掛かる。

 それを見た七瀬は覚悟した様に俺にしがみ付いて顔を俺の胸に埋めた。

 俺はチカラで七瀬を浮かせお姫様抱っこをすると歩道を5メートル程ダッシュしラジコン機を避ける。

 ラジコン機は走行中の車を絶妙にすり抜け、俺達とは反対側の歩道の欄干に激突、大破し炎上した。

 破片は全て俺がサイコキネシスで飛び散らない様にする。

 幸い誰も怪我人は居ない様だが反対側の歩道を歩いていた通行人は足を止め、スマホを取り出して撮影したり通報したりしている様だ。

 俺の腕の中にいる七瀬の様子を見てみると、無事だが目は固く閉じたまま開かない。

 俺は七瀬に話し掛けた。


「七瀬、もう大丈夫だ。

 誰も怪我はしなかった、怖がらせて済まない。」

 

 七瀬がゆっくりと目を開け俺と目を合わせると、青ざめていた顔は急に紅く染まり、暫く俺を見たまま目線を逸らさない。

 そして縮こまっていた両腕を俺の首に回すとうっすらと涙を浮かべた。


「凪君…怖かった…。」


「あぁ、ごめんな、俺のせいで。

 …やっぱり友達を解消しようか?」


「…ダメ。ボクはこれからキミにしがみ付いて離れないから。」


「…そうか、ありがとう。」


「後ね、凪きゅん…。」


「…何だ?」


「前髪は絶対に切っちゃダメだよ。」


「…お前もか。」


 そこで澪が俺達に歩いて近付いて来た。


「今日も派手に突っ込んで来たわね、2人共大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だ。

 これでもう俺が不幸体質だってハッキリ解っただろう?

 それに七瀬は幸運体質では無い様だ。

 これ以上は澪に居てもらった方がいい。

 七瀬、立てるか?」


「うん、多分…。」


 俺は七瀬を立たせるとハンカチを出して涙を拭いてやる。

 そして俺は駅に向かって歩こうとするが、七瀬は俺から離れようとせず腕を組んで来た。


「あの…平川さんや?」


「…七瀬。」


「あの…七瀬…?」


「なあに、凪きゅん。」


「…澪が居るから、もう離れても大丈夫だぞ?」


「ボク怖いから凪きゅんから離れない。」


 七瀬は何故そんな当たり前のコトを聞くの?という感じでキョトン顔をしている。


「「…えっ?…えぇーっ………。」」


 俺と澪がハモった。

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