第9話 正しいチカラの使い方

 過去知を終え、気付いたら次の授業が始まっていた。

 クラス内を見渡すと、脳内で見た堀の取巻きが1名、同じクラスメイトである事に気付く。

 なる程、だから鳴沢は俺に声を掛けるなと…。



 …何という理不尽な集団の暴力か…

 言葉で当時の状況を誰かから聞く訳では無く、こうして脳内で追体験をすると本当にはらわたが煮えくり返る思いだ…。

 過去、こうやって公にならず犯罪を犯しても法の裁きを受けないで真面目に生きている人々を苦しめ、わらって過ごすやからは沢山居た事だろう…。

 俺はこのイジメを解決する事の出来る力を、幸いにも持ち合わせている。

 この力を公にしたくは無いが、知ってしまった以上放ってはおけない。

 図らずも得たこのチカラを使い、せめて周りに居る人達だけでも何とか助けたい…

 そう思って過去に何度かこのチカラを使った事があるが、どうやら今回も使う時が来た様だ…。


 

 翌日、俺は1枚のDVDを持って登校した。

 そのDVDを同じクラスに居た堀の取巻きの下駄箱に置く。

 一緒に貼り付けてあるメモにはこう書いておいた、

 

 『これを見たら明日の放課後、体育館裏に来い。』


と…。



 かくして、その翌日の放課後には堀とその取巻き4人が体育館裏に勢揃いしていた。


 俺が姿を現すと、同じクラスの堀の取巻きが


「コイツ…同じクラスの陰キャ野郎だ…。」


とつぶやくのを切っ掛けに、堀が値踏みする様な目線を俺に向けた。


「おい…お前があの動画を隠し撮りしてた奴で間違い無いか?」


「あぁ、俺が隠し撮りをした訳では無いが、呼び出した本人ではある。」


 俺は過去知等のチカラで見たものや実際に目で見たものを、写真や動画の様に鮮明に記憶しておくことができる超能力、映像記憶とロジック・マスター(精神的にコンピュータに干渉し、コンピュータを自在に操る超能力)というチカラを使って体育館裏の件と空き教室の件のDVDを、堀を呼び出すためだけに作り出したのだが、隠し撮りはしていないので嘘は言っていない。


「チッ、他にも仲間は居るってワケか…まぁいい…

 で?お前は何で動画をアタシ達に渡して来たんだ?

 しかも今更半年も前のものを。」


「…その前に、体育館の扉の内側に潜んでいる大きなお友達はこの席に招かなくてもいいのか?」


 俺はコイツ等が罠を張ってないかテレパスや透視で確認済みだ。

 

「プッ、大きなお友達?

 お前面白い奴だな。

 バレてちゃ仕方ない…

 どんな奴が相手か判らなかったから、男ならと思って増援を頼んでおいたんだ…

 おーい、お前ら!

 出て来いよ!」


 その堀の大声が聞こえたのか体育館の扉が勢い良く開き、ゾロゾロとかったるそうに歩く男が7人程姿を現した。


「おー、やっぱり男だったんだ…

 ヤッホー、俺は内田っていうんだ、こいつ等の取りまとめ役ってところかな。

 んで、君はなんて名前なの?」


 その中の1人、内田と名乗る男は髪は長めでピアスをしており中肉中背で、一見優男に見える。

 内田は軽いノリでニコニコしながら俺の方にゆっくりと近付き、自分との距離を詰めて来た。


「俺か?俺はキャベツさん太郎だ。」


「フッ…随分ナメた名前だねぇ…

 それにこれだけの人数に囲まれていても全然ビビって無い…

 君、陰キャを装ってるけど、実は格闘技とかメチャメチャ強い系?」


「…まぁ、そんなところだ。」


「それにしては全然身体を鍛えてる様には見えないねぇ…ッ!!」


 内田は突然俺との距離を一気に詰め、右拳で俺の顔面を殴りに来たが、インパクトの瞬間で俺が一言



と口にした途端、動画の一時停止のボタンが押された様に、内田は身体が固まったまま微動だにしなくなった。






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