試食で試作【ヒトコワ】
派遣でバイトをしているスーパーの試食コーナーに毎日来る男の客がいる。私がウインナーを焼いていると、必ず「仕事、何時に終わるの?」と話しかけてくる。かなり年上の、おっさん。服装は少しだらしなくて、小太り。気持ち悪いし怖いから、愛想笑いをしてやりすごす。本当はバイト先を変えたいけれど、大学の研究も忙しいから、自由な時間に働ける派遣バイトは気にいっている。時給もいいし、あの男さえいなければ、良いバイトなのだ。
男は今日も来た。
「仕事、何時に終わるの? 待ってるからお茶しようよ」
「そういうのはできない決まりなんですよ」
「そんな硬いこと言わないでさ」
「いやー、そうもいかないんですよー」
私はホットプレートで焼いたウインナーを男に勧める。
「こちらどうぞ」
「ふふふ、ありがとう」
そう言うと男は「あーん」と口を開けた。私は震える手でトングをつかみ、男の口の中にウインナーをそっと置いた。
「おお熱い。うまい! ありがとう」
笑いながら男は帰っていった。
翌日から男は来なくなった。ニュースである男が死んだと報じられている。大学で研究している薬品の効果を試すことができて、私はほっとした。これで単位がとれそうだ。
【おわり】
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