試合終了【ほっこり】
今日の試合に負けたら引退する。38歳、独り身の、おんぼろボクサーだ。でも勝ったら、彼女にプロポーズすると決めている。リングサイドで見守る彼女が見える。大丈夫だ。必ず勝って、ファイトマネーで豪華な指輪を買ってやる。待っていろ。
試合開始のゴングが響く。俺は燃える根性を胸に、若いチャンピオンにくらいつく。まだまだ負けてたまるか。俊敏な相手のリーチをかわし、グッと踏み込む。パンチの応酬はやまない。
セコンドが投げ入れたタオルが白くスローモーションに見えたのと、俺がマットに沈むのは同時だった。12Rの残り10秒。俺は無残に倒れていた。ちくしょう。終わってみれば惨敗だった。セコンドに引きずられるようにリングを降りてグローブをはずす。椅子に座ると体中が痛んだ。
「お疲れさま」
優しい声に顔をあげると彼女がいた。ちくしょう、目が腫れちまってよく見えねえ。
「よく頑張りました」
彼女は、髪を結っていたリボンをほどいて、俺の左手の薬指に巻いた。
「これからもよろしくお願いします」
彼女が俺の手を握る。ちくしょう、涙でかすんでよく見えねえ。試合は終わったが、俺の人生はこれからみたいだ。
【おわり】
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