交差する朝【不思議】

 保育園に連れて行くために息子と一緒に家をでる。遊びたいさかりの息子は、今私が鍵をかけたばかりの玄関の、インターホンのチャイムを押す。ピーンポーン。いたずらしないで、と言いかけたとき


「はい」


 インターホンごしに返答があった。私はぞっとした。家には誰もいないはずだし、今のは私の声だった。息子はもう興味をなくして歩き始めている。気味が悪かったが聞き違いだろうと自分に言い聞かせ、息子と保育園へ向かう。


 息子が私の手を振りほどいて走り出す。大きな交差点を渡ろうとしたときトラックがスピードをあげて向かってきた。危ない! 私は慌てて追いかけたが間に合わない。息子は私の目の前でトラックにはねられた。救急車で運ばれる。意識不明の重体だった。


 翌朝、呆然としたままお見舞いに行くしたくをしているとチャイムが鳴った。こんな朝から誰だろう。

「はい」

 何の返答もない。まさか……と不思議な感覚に襲われる。物は試しだ。

「待って! 今日は保育園に行っちゃだめ!」

 叫んだ。一瞬の静寂。

「ママ?」

 振り返ると息子がいた。元気な姿で、怪我もしていない。

「昨日は保育園お休みしたけど、今日は?」

 私は息子を思い切り抱きしめた。


【おわり】

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