可能性
僕は少し彼のことを誤解していたのかもしれない……。こんな成りだが、泉さんや船橋さんより格上のAランクギルドの、しかもマスター。
人並外れた戦闘力は有しても、何らおかしくはないのだ。
「だから言ったじゃないですか」
「あ、イテっ」
里紗さんが龍堂の前までやってくと、手をグーにして彼の頭を軽く叩いた。
ただやっぱり、相変わらずギルド長としての格はまるで感じない。
「しかし、よく気づきましたね。君のスキルですか? 冒険者をやるには随分若い」
「あ、いや僕は……」
「いえ、光大君は冒険者ではないですよ。彼もまた紬君と同じ、ダンジョン化に巻き込まれただけの一般人です」
「光大はわたしの弟なんです」
答えに詰まった僕に代わって、泉さんと姉さんが助け舟を出してくれた。
「それは失礼。スキルを習得してるもんだからてっきり同業者なのかと」
「ここに来るまでにたくさんの魔物を倒してきたんですよ。その時にレベルアップして。料理作ったり怪我を治したり、それはもう光大は大活躍です!」
「分析系のスキルに料理術に回復魔法ですか。弟さんはかなり器用な技能の持ち主なんですね」
「そうなんですよ! しかもマス……いや、ロードと同じユニークスキルも発現したんですよ」
「何っ!? それは本当か!」
里紗さんと姉さんが話していると、龍堂が食いつくように反応した。
「マイ、フェイバリットフレンド! 君もわたしの仲間だ。いやあ~、嬉しいね~。まさか、俺と同じユニークスキル持ちに出会えるなんて。運命に感謝!」
意味不明な文言を叫びながら、部屋中に響きわたる龍堂の声。そんなハイテンション様子の彼を見て、僕は理解した。
それは、彼は僕にとって苦手なタイプの人間だということを。
「静かにしてくださいロード。光大さん、ドン引いてますよ」
「しかし、ユニークスキルか。君のにはどんな効果があるんだい? 少しおじさんに見せてくれ」
龍堂は里紗さんの忠告をまるで知らん顔で、僕に尋ねてきた。
いつの間にか龍堂の腕から流れ出る血は止まっていた。これも恐らく、彼のユニークスキルによるものだろう。
ふざけた人間だが、効果はとても強力なものだ。それに比べて、僕のは……。
「もうすでに使っていますよ」
そう言うと僕は、部屋の隅に佇むように浮かんでいる光球――ホーリーノヴァの光を指さした。
「光が人間や魔物のMPを感知して自動で追跡するスキルなんです。恐らくあなたのMPに反応したんでしょう。光を追いかけて僕らはこの部屋にやってきました。MPがより大きな者へと光は引き寄せられていくんで……」
「なるほど、そうだったのか。少年よ、言いづらいんだが話を聞くにそのスキル……、少し弱いな」
「!? ロード、失礼ですよ! 初対面の人間にそのような言葉は」
「あ、いや……! 誤解しないでくれ、少年。君を蔑むつもりで言ったんじゃないんだ。むしろ逆、俺は君の可能性について話しているんだ」
「僕の可能性……?」
「ああ、俺のユニークスキル――ブラッドペインは最初、血が凝固するくらいのただ怪我した時に出血を止めることができるくらいのとても弱いスキルだったのだ」
「えっ、でも今やったのは……」
「そうだ。ユニークスキルが発現してから少したったある日のこと、俺は自分の血を剣や槍といった不特定の形に変化させられることに気づいたのだ。つまりだ。君のユニークスキルはまだ発展途上の段階なのかもしれないと言いたかったんだ。もしかすると、俺以上のとんでもない効果を秘めているかもしれない。でも、それはわからない。何故なら、ユニークスキルは前例のない世界で一人にしか持っていないスキルだからね。可能性は無限大だ!」
龍堂が長々と熱く僕のユニークスキルについて語ってくれた。
最初、僕は彼のことを変わり者のふぬけた奴だと思い、少し苦手意識を持っていた。しかし、その根っこにはとても大きな情熱を持つ芯のある人間だったということに僕は気がついた。
姉さんが星の数ほどあるギルドの中で、なぜここを選んだのか少しわかったような気がした。
「さてと、そろそろ向かうとするか。ダンジョンボスを攻略しに」
龍堂は重い腰を上げるように、ゆったりと立ちあがった。
「ボスがいるんですか!?」
その言葉に泉さんが強い反応を見せる。
「ム……、そうだが」
「わたしたち、ダンジョンを脱出するためにボスの在処を捜してたんです」
「そうか! 旅は道連れや何とやら……同じ志を持った者同士、共に行こうではないか! 里紗もかまわないか?」
「ええ、かまいませんよ」
新たな仲間に姉さんの所属するギルド――緋色の君主の二人が加わった。
これからいよいよ、僕らはボスの討伐をしに向かう。討伐した暁には転移門やらが出現し、ようやくダンジョンの外に戻れる。
それはつまり、僕の冒険がもう間もなく終わりをむかえることを意味するのであった……。
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