ホーリーノヴァ
「僕のユニークスキルが、ですか?」
「ああ。光大君、もう一度スキルを発動してみてはくれないか?」
「はい……」
泉さんに言われるがままに僕は頭の中で唱える。
――ホーリーノヴァ。すると再び、僕の目の前に小さな光の球体が浮かび上がった。
彼女は先ほど、このスキルの能力が少しわかってきたと言っていた。
ただ、持ち主の僕からしてみれば、猫のように自由気ままに動き回る――クソの役にも立たないスキルなんだが……。
泉さんは一体、何を知ったのだろうか。
「光大君、今その光は君の傍を飛んでいるね。他の方に飛ばしてみてはくれないか?」
すると彼女は、僕に対して光を動かすよう指示を送ってきた。
「泉さん、ごめんなさい。この光、僕の意思で動かせないんです」
そう……。僕が今言った通り、ホーリーノヴァは自身の手で操作することができないのだ。
「そうだ。君のユニークスキルは自動制御だと言う話だったね。しかし、もし自動であれば動くことのルールだったり、法則性があるはずなんだ」
確かに……! 言われてみたらそうかもしれない。
あまりに好き勝手飛び回るものだから深く考えてはいなかったが、動くには動くだけの条件があってもおかしくはないんだ。
だとしたら、僕のスキルは一体どういう条件で動くんだ?
「最初は冗談抜きで、女性に対してのみ付きまとうスキルだと思ったよ」
「あ、いや。それは……」
恐らく最初にスキルを使ったとき、姉さんや泉さんの方に飛んでいったことを言ってるのだろう。
そのせいで、僕は姉さんに変態だと誤解されかけたあの時のことだ。
「ハハ! 何も君を女好きだと言ってるわけじゃないんだ。スキルの中には異性に対してのみ、発動するものもある。魅了魔法の類だったり――。ただ、すぐにわたしたちの元から離れていったことで、その可能性は消えた」
泉さんは話を続ける。
「その後、君のユニークスキルはキマイラの元に向かっていった。紬君、わたし、キマイラ……。この順番で飛んでいったことにわたしはある仮説を立てた。これはMPに反応しているんじゃないかと」
「MP、ですか……?」
MP……通称マナポイント。ダンジョンに入る冒険者や魔物に必ず存在するステータスで、この値を消費することで自身の持つアクティブスキルを放つことができる。
当然、高ければ高いほど強力なスキルを発動――連発することが可能で、MPの大きさはその生物の一種の強さの基準になるのだ。
「わたしはMPの量には自信があるからね。ただ、さすがにE.D.Mほどじゃない。わたしの元を離れたのもいち早くキマイラの存在を察知したからなのだろう。検証してみよう、船橋!」
そう言うと突然、泉さんはコートをめくると内側から何かを取り出し、船橋さんに向かってそれを放り投げた。
船橋さんが片手でキャッチしたその物に僕は目を向ける。それは液体の入る青い小瓶だった。
「これはエリクサー。飲むと使用者のMPを一瞬で全回復してくれる希少品だ。船橋、飲んでみろ」
「えっ!? いいんですか? 泉さんダンジョンに入る前、ただの調査任務にエリクサーは使いたくないって……」
「たしかにそう言ったが、二度もE.D.Mに襲われたとなれば話は別だ。お前は後方支援職だからな。MPがなければただの一般人と変わらない。先の戦闘で使い果たしたんだし、まずはお前が飲め」
「あ、はい……」
船橋さんは言われるがままに小瓶に口をつけると、一気に中身を飲みほす。
すると一瞬、彼の体が青く光輝いたようにみえた。
「やっぱりか」
その直後、ホーリーノヴァは僕の傍を離れると今度は船橋さんの周りでプカプカと浮き始めたのだ。
「エリクサーを飲んだことで、この場で一番のMPの所有者は船橋だ。これで説は立証されたな。君のスキルはMPに反応し、追いかけるものとみて間違いない」
なるほど――。となると、僕のユニークスキルは……
「索敵系のスキルですか?」
「ああ、まあそんなところだ。だが、もしかすると他の効果もあるかもしれない。それは我々に危険を知らせることだ。今考えれば、光はわたしたちにE.D.Mの存在を警告してるように思わなかったか」
「そうか……! 十字路のとき」
「あっ!」
船橋さんの言葉で僕もあることを思い出した。
それは十字路で二択の道を正面に進んだが、光はしばらく十字路に留まり僕たちに置いていかれそうになったときのことだ。
僕らの進む先にE.D.Mがいることがわかっていたから、あの時ホーリーノヴァは動かなかったのか。
「それだけじゃない。その後、正面に進んだわたしたちよりもはるか前に光は飛んでいった。そして、それに反応したキマイラが壁を突き破り、わたしたちに襲いかかってきた。考えてみてくれ。もし光が向かっていく前にキマイラの横を、わたしたちが通りかかった瞬間に壁が突き破られたら……」
「あっ……」
それは考えただけでも恐ろしいことだった。
「俺たちの命はなかったでしょうね」
「そっかあ!」
僕や船橋さんがもの恐ろしさを感じているなか、姉さんが呆けた様子で言った。
「だから、泉さん。光大のスキルが一番役に立ったって言ったんですね!」
「そうだ! あの時、君のスキルが知らせてくれなければ、我々は全滅だったからね」
そうだったんだ……。僕はみんなの足手まといだと
てっきり思っていたけどよかった。
これで少しでもみんなの役に立ててるのならば――。
「うん?」
すると光が僕たちの元を離れ、右側の道の前で止まった。
それはまるで僕たちのことを待っているかのようだった。
「鬼が出るか蛇が出るか……。全員、行ける準備は?」
「はい! ばっちしです」
「俺はいつでも行けますよ」
「僕も大丈夫です」
「よし、進むぞ!」
泉さんの掛け声と共に光は道の先へと飛んでいき、僕らはその後を追いかける。
二層の攻略が今、始まった。
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