ユニークスキル
「二層に進む……んですか?」
その言葉に僕は思わず聞き返さずにはいられなかった。なぜ、わざわざダンジョンの奥深くにまで進む必要があるんだ?
それに泉さんがもう一つ言った、ダンジョンボスの討伐――。僕らは一刻も早くダンジョンの外に出たいのに、彼女の意図がさっぱりわからない。
「ああ。先にも言った通り、E.D.Mがうろついているせいで一階層からの脱出は極めて難しい。私の見立てが正しければ、恐らく今回の調査作戦に参加した全ギルドのメンバーを集めても、E.D.Mの討伐は不可能だろう」
「E.D.Mがすごく脅威になるのは、話を聞いていて何となくわかります。ただ、だからと言って二層に進む――ましてや、ダンジョンボスを倒しに向かうなんて……」
「そうだ。そこが肝なんだ、光大君。わたしたちは何も富や名声を求めて、ボスを討伐しに向かうわけではない。ダンジョンではボスを倒した時にある現象が起こる。
ある場所……? ダンジョンボスを討伐しに向かってまで、今行きたい場所といえば……。
「まさか!」
僕はすぐに気がついた。
「フ……、相変わらず察しがいいな。そうだ、転移門はダンジョンの入り口へと続いているんだ」
「だから、二層に行くんですね」
「ああ。E.D.Mに四人で挑み入口を目指すよりかは、深層に進みダンジョンボスを倒し転移門を出現させる方が安全で確率の高い帰還方法だとわたしは考える」
なるほどな……。今までの泉さんの話を聞いて、僕は一人納得した。
「ダンジョンボスは強大な相手だ。彼の物を確実に仕留めるにはこの場にいるすべての人間の協力が必要だ。その中には光大君、君も存在している」
「僕も、ですか……」
泉さんは何やらとても僕に期待しているような言いぶりだが……。
「僕には戦う力はとても……。出来ることと言ったら仲間を回復するか、魔物を解体するぐらいで」
「ハハ。何もいきなり武器を手に取って魔物と戦えと言ってるわけではないよ。その二つだけでも十分すぎるほどの貢献だ。しかしだ。もしかしたら今の君に、それ以外の事でわたしたちに恩恵をもたらすことができると言われたらどうする?」
「それ以外の事……?」
相変わらず泉さんの話のクセは強かった。大事なことをボカし、あえて僕に考えさせるようなそんな感じだ。
「紬君から聞いたよ。君はヒーリングを習得したと同時にもう一つのスキルを発現したんじゃないか」
「あ!」
僕は思い出したことを確かめるかのように、スマホを起動した。
船橋さんを治すためのヒーリングを発動したまま、余った左手で操作し画面に映したのは僕のステータス画面。そして僕が目をやったのは、ヒーリングの隣の新しく習得した新スキル――ホーリーノヴァ。
「そのスキルはもしかしたら君の新しい才能で、我々の冒険の手助けになってくれるかもしれない。効果を教えてくれると助かるのだが……」
「あ、はい……!」
僕はすかさず、ホーリーノヴァと記された文面をタップした。
どんな効果なのだろうか……。期待に胸が高まる。僕の得意技能である回復系の上位互換なスキルなのか、はたまた補助系ではなく攻撃的なスキルなのかも! そうすれば、僕も姉さんたちと同じように魔物と戦うことができるかもしれないな。
ワクワクしながら画面のロードを僕は待つ。そして、すぐに内容が表示される。
__________
スキル「ホーリーノヴァ」消費TP4
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主に発生する技能スキル「光魔法?」
__________
ん、何だこれは? 本来ならスキルの効果を説明してくれる文章が長々と表示されるはずが、ハテナマーク一色で埋まっているんだが。
「なんかバグってるんですかね。ハテナマークだらけで、効果がよくわからないんですけど……」
「どれどれ……。あ、光大君。ヒーリングはもう解いていいよ」
僕は発動していた治療魔法を解除すると、船橋さんが壁から背中を起こしのぞき込むように僕のスマホ画面を見た。
「これは!」
見たのも束の間、船橋さんが驚いたように目を見開いた。
「光大君、これはユニークスキルだよ」
「本当か!?」
「えっ、嘘! 光大、マジ!?」
そう言ってすぐに泉さんと姉さんが僕の傍まで駆け寄ると、二人は携帯画面をじっと眺める。
「驚いた……。まさか今日日、ユニークスキルの発現に立ち会うとは」
泉さんも船橋さんと同様、呆気にとられたと言わんばかりな様子だ。
「何です、ユニークスキルって?」
大の大人がこうも驚くなんて一体何事なんだろうか。すかさず、僕は泉さんに聞き返した。
「世界にダンジョンができてから、人々には様々なスキルが宿った。違う人間でも同じ効果のスキルを習得することがある。そういった類のものは図鑑やら光大君の持っているアプリなどに登録され、世界中の人間が内容を共有できるようになっているんだが――」
泉さんが話を続ける。
「ユニークスキルはそれのどこにも登録されていないスキル。つまり、光大君。君のそのホーリーノヴァというスキルは地球上で君一人しか習得していない、とてもレアなスキルなんだ」
なるほど……。それならアプリに表示されないのも頷けるな。だって、前例がないんだから。
しかし、僕一人だけのスキルか……。自分だけしか持っていないオリジナルのスキル。何だか胸が高まる気分だ。
「光大君。せっかくだし、使って効果を確かめてみないか?」
「はい!」
僕は大きく返事をした。
「ホーリーノヴァ」
そしてすかさず僕はユニークスキルを発動する。すると、僕の目の前に一つの小さな光の球体が突然出現したのだった。
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