ヒーリング
弾丸が天井にぶら下がる一匹のヴァンパイアバットに着弾した瞬間、まるで花火のはじけるような音がダンジョン内に轟いた。
そしてすぐに五、六匹ほどのその蝙蝠の姿をした魔物がひらひらと地面に落ちていく。
泉さんが撃った弾の数は一発。なのに死んでるのは六匹――。散弾か……!
遠くでよく見えなかったがおそらく花火のような音が聞こえた時に、弾丸の中にさらにある無数の弾が飛び散って同時に近くの魔物を仕留めることができたのだろう。ただ……、
暗闇に包まれた天井にいくつもの赤い小さな点が光る。ヴァンパイアバットの目だ。銃弾の音によって魔物たちが眠りから覚め始めた。
「光大君、君は船橋のほうまで下がるんだ。紬君、接近戦は君に任せるぞ!」
「もちろんです!」
泉さんが狩猟銃に弾丸を込める最中、ヴァンパイアバットの群れが一斉に飛び立つと二人に向かって急降下してきた。
二人から見て一番近い場所を飛んでいる魔物に泉さんは銃口を向ける。再び乾いた音が洞窟に響きわたると、銃弾は威力減衰せずヴァンパイアバットを縦一列に貫いた。
今度は貫通弾……! 今の一撃で十匹近くはもっていったぞ、すごいな泉さん。
やっぱプロの冒険者だけあって、実力はピカ一だ。
「ハァッ!」
しかし、姉さんも負けてはいなかった。泉さんが弾を装填する間、無防備になっている所を守るような形で、地面に近づいてきたヴァンパイアバットを刀で次々と切り伏せる。
遠くの敵と近くの敵、臨機応変に互いの特徴を生かしながら退ける。二人は今日会ったばかりだと言うのに、僕みたいな素人目に見てもとてもいい連携のように見えた。
そんな折、ブーブーと僕のズボンの中で鳴り響くバイブレーション。
「ステータスオープン!」からだ。それは僕のレベルが上がったことを知らせる通知だった。
__________
コウダイ レベル4
TP 13
STR 2
VIT 2
AGI 3
INT 6
LUC 4
<技能スキル>
光魔法 Lv1
回復魔法 Lv1
料理 Lv1
観察眼 Lv1
<パッシブスキル>
解体の心得
脅威の見極め
<アクティブスキル>
なし
__________
レベルの上昇によってステータスは微増したものの今、僕が求めているのはそれじゃない。
回復スキルの習得だ。僕の横で苦しそうにうずくまる、船橋さんの怪我を治すことができるだけの力を――。
姉さんたちの奮闘により、魔物の群れの数はあと半分を切っていた。
クソッ、頼む! 次のレベルアップではどうかスキルが宿りますように……!
**********
「終わったか……?」
泉さんが残った最後の一匹に銃弾を打ち放つと、ヴァンパイアバットの群れは全滅した。
「光大、どう?」
姉さんは慌てた様子で僕の方に走ってやってきた。僕のスマートフォンの画面をのぞき込む姉さん。知りたいのは僕のステータスが新しく更新されたか、そして一番は新たなスキルが発現したかどうかだ。
「姉さん」
僕はそう言って、姉さんに端末の画面を見せてやった。
__________
コウダイ レベル5
TP 15
STR 2
VIT 3
AGI 3
INT 8
LUC 4
<技能スキル>
光魔法 Lv1
回復魔法 Lv1
料理 Lv1
観察眼 Lv1
<パッシブスキル>
解体の心得
脅威の見極め
<アクティブスキル>
ヒーリング NEW
ホーリーノヴァ NEW
__________
「姉さんたちが頑張ってくれたおかげだ」
「光大、あんたアクティブスキルの欄に……! 泉さーん!」
姉さんは僕にスキルが発現したことが嬉しかったのか、興奮した様子で泉さんのもとに呼びに行った。
「船橋さん、傷口を見せて――」
そんな姉さんをよそに、僕は壁にもたれかけ苦しんでいる船橋さんに声をかけた。
「そうか。治癒魔法を習得したんだね。すまない……」
船橋さんは申し訳なさそうに自身の羽織る迷彩柄のコートをめくると、血が滲み出る脇腹の箇所を見せてきた。
僕は彼の前にしゃがみこむと、頭の中でスキルを唱える。ヒーリング――。
すると、僕の右手が青白く光り輝いた。僕はその宿った光を、船橋さんの傷口の方へとかざす。
姉さんたちが先ほど、ヴァンパイアバットと戦っているときに確認したスキル――ヒーリングの効果はこうだ。
__________
スキル「ヒーリング」消費TP3
回復系の魔法の中で最も基本的なスキル。マナを消費することにより放たれる光は、傷ついた患部をたちまち癒してくれる。
ただ、あくまで初歩的なスキルなため、治癒の効果には限界がある。臓器損傷や骨折といった重篤な怪我を治す場合には、より上位のスキルが必要になる。
主に発生する技能スキル「回復魔法」
__________
「どうですか? 僕の魔法、効いてますかね……?」
僕は恐る恐る船橋さんに尋ねてみた。もし、傷が臓器にまで達していたら今の僕の技量だと手には負えないが……。
「ああ、ばっちりだ。傷が塞がっていくのを感じるよ。もう少し時間が経てば包帯も取れそうだ」
「本当ですか……!」
それはよかった。どうやら、大事には至らなさそうだ。
心なしか、船橋さんの表情も穏やかになったように見えた。
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