怪我人
「あっ!」
スライムの猛攻を退け、ダンジョンの探索を再開した僕たち。
ふと僕は、スマートフォンの電源を付けてみた。特に理由はない。一定時間立つと携帯に連絡が来ていないかどうかを確認したい、一種の現代人の癖みたいなものだ。それは僕も例外じゃなかった。
「どうしたの、光大?」
姉さんが後ろを振り返り、僕の携帯画面をのぞき込んだ。
「またレベルアップしてる」
今日、これで三度目か……? それは「ステータスオープン!」からの僕のレベルが上がったことを知らせる通知だった。
アプリをタップすると、レベルが上がり新しく更新された僕のステータスが表示された。
__________
コウダイ レベル3
TP 12
STR 1
VIT 2
AGI 2
INT 5
LUC 3
<技能スキル>
光魔法 Lv1
回復魔法 Lv1
料理 Lv1
観察眼 Lv1
<パッシブスキル>
解体の心得
脅威の見極め NEW
<アクティブスキル>
なし
__________
これは……! ステータスの数値が全体的に上がったのは当然として、目に留まるのはパッシブスキルの欄に追加された新たなる僕のスキル。
効果が気になった僕は確認せんと、NEWマークで表示されるそのスキルの名称を続けざまにタップした。
__________
スキル「脅威の見極め」
ダンジョン内の罠・トラップを看過することができるスキル。スキル所有者に災難が起こり得そうな時、その地形や宝箱などがマナによって赤く光り知らせてくれる。
遭遇した魔物の名称を把握することができる。(世界共通の図鑑に登録されている魔物だった場合のみ)
技能スキル「観察眼」固有のスキルで、技能レベルが上がれば上がるほど――見極められる範囲、精度も順次上昇する。
主に発生する技能スキル「観察眼」
__________
脅威の見極め――。なかなかに便利そうなスキルじゃないか。ダンジョン内には冒険者の行く手を阻むトラップや、宝箱に罠が仕掛けられていると聞いたことがある。
このスキルがあれば、この先の旅路も少しは安全になるかもしれないな……。
「へえ~、もうスキル二つあるんだ。だいぶ順調に育ってるわね」
姉さんが感心した様子で、僕の端末を見つめていた。
「そうなの?」
「うん。あたしの場合5レベルに一回、パッシブかアクティブのスキルが身に着くって感じだったから、3レベルで2つのパッシブスキルはかなりの伸びしろよ」
「ふ~ん」
まだレベルも低い段階でいまいち実感は湧かないが……、まあでもそういう事情に詳しいであろう冒険者の姉さんが言うのであれば、あながち間違いでもないのだろう。
「光大!」
そんな談笑をしている最中だった。姉さんは急に顔を強張らせると、手で僕を後ろに制した
「何か来る!」
そう言うと姉さんは、石壁に囲まれた僕たちの歩く先の一本道をじっと見据えながら刀を構えた。
眉一つ動かさない――。凄まじい集中力だ。
「待ってくれ、我々は君たちの敵じゃない」
これは……、人の声? すぐに僕らの視線の先、暗闇から声の主が姿を現した。
「むしろ逆だ。どうかわたしの連れを助けてくれないだろうか?」
それは二人組の男女だった。女性が肩を貸し歩いている隣は、今にも倒れそうな満身創痍な男だった。
**********
男は二十代後半ぐらいだろうか。髪を短く刈り上げた老け顔のその青年を、壁に座らすような形で女性は肩からおろした。
その時、僕は気がついた。男の脇腹からおびただしいほどの血が流れ出ていることに。それは、応急処置で巻いたであろう包帯も真っ赤に染まるほど。
顔に尋常じゃない汗をかくその様子は、とても苦しそうだった。
「しっかりしろ!」
凍るような冷たい声で男を励ますその女性は、男とそんなに歳の差は離れていないように見えた。
理知的で凛とした美しい容姿をしており、肩にかかるほどのロングヘアがとてもよく似合う。
黒い、一丁の大きな狩猟銃を背負う彼女の服装は、白いタンクトップに茶色いデニムパンツ。迷彩柄のコートを一枚軽く羽織っていて、男の方も女性と似たような姿だった。
この格好はもしかして……?
「ひょっとして捜索隊の方々ですか?」
僕の思った疑問を代わりに投げかけたかのように、姉さんがコート姿の女性に問いかける。
「ああ、正確には調査隊だが……まあ、似たようなものだ。わたしは泉。こっちの連れは船橋だ」
「あたし、紬って言います! この子は光大。あたしの弟です」
姉さんは先輩冒険者の前で気持ちが高ぶってるのか、泉という女性に何故か敬礼しながら張り切った様子で挨拶した。
「君たちは恰好から見ると、ダンジョン化に巻き込まれた遭難者ってところか?」
「はい! 風呂に入ってたら、それはもう突然に」
「ハハ、それは災難だったな。そんな格好になってしまったのもうなずける」
姉さんと泉さんが他愛ない話に盛り上がる。
「風呂……、ですか?」
その時だった。不意に割り込むように、船橋さんが二人の話に入ってきた。
「あの公園にそんな入浴所なんてありましたっけ?」
「ム……。それもそうだな……」
公園……? 二人は一体、何の話をしてるんだ? 僕らは自宅で普段通りに過ごしてるときにダンジョンに巻き込まれて姉さんは風呂、僕はニュースを付けながらスマートフォンを……。
待てよ……、ニュース? それって……、
「もしかしてお二人は、城ケ崎第二公園のダンジョンから入ってきたんじゃないですか?」
「ん? どうしてわかるんだ?」
わかるも何も……
「僕ら、その公園の目と鼻の先ぐらいに住んでいて、つい二時間くらい前に自宅がダンジョンに呑まれてしまったんです」
城ケ崎第二公園は、そのダンジョン化のニュースでやっていた公園の名前だ。
「なるほどな」
泉さんが小さくうなずいた。
「ダンジョンの入り口が違えど、中は繋がっているのはよくある話だ。おそらく君たちの家と俺たちの入った公園も、そのケースに当てはまる」
船橋さんの説明に、僕は状況を理解した。
「しかし、となると民間人ですか……。回復系のアイテムやスキルは持ってなさそうですね。泉さん、どうやら俺はここで限界のようでっせ……」
僕に丁寧に話してくれた船橋さんだが、相変わらず表情は苦しそうだった。
まるで全てをあきらめたかのように、泉さんへぼやいた。
「船橋、よく見ろ。死にかけで、お前の目は節穴になったのか? 彼らは成りこそ素人そのものだが、ダンジョン内だと言うのに傷らしい傷もないだろ?」
泉さんの言葉に、船橋さんの目が丸くなった。
「それはつまり君たちの中に癒し手や、もしくはそれに準ずるアイテムを持ち合わせているということではないのだろうか? もし、そうであれば頼む! 力を貸してはくれないだろうか? 仲間の危機なんだ。わたしにできることであれば、何でもする!」
泉さんは僕らよりはるかに年上だと言うのに、僕らに向かって深々と頭を下げだした。
仲間想いのすごくいい人なんだろう。僕も彼女の気持ちに答えたいのは山々だ。だけど……
「ごめんなさい、泉さん。あたしたち、怪我する間もなく道中の魔物はあたしが全て倒していったんです。あたし、魔物を倒すことには自信があるんですけど、治療系のスキルはさっぱりで……。弟の方は今日、ダンジョンに入ったばっかりでスキルもまだ……」
「あぁ!」
姉さんは突然、何かを思い出したかのように大声をだした。
「光大、あんたの技能スキルに回復魔法なかったっけ?」
「あ!」
姉さんにつられるような形で、思わず僕も声が出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます