第18話 恋煩い:桜夜

 「授業中は会話できないからな!」

 朝。今日ももう母は仕事でいない。玄関で今日もきつく桜夜に言い聞かせる。学校で、一人でブツブツ独り言を言っていたら怪しまれるに決まっている。何もないのに、喋っているかのように表情を変えていては、それもまた怪しまれる。だからこそ、念には念をということで学校での利用は控えるつもりだ。

 「なんでよ!せっかく喋れるようになったのに!」

 昨日はまだちょっと寂しい感じの「早く帰ってきてね」が聞こえていたのに、今では駄々をこねる猫...人間である。もし凛大が彼女が欲しいと思っていたら、非常に歓喜していたことだろう。しかし、理性の強い...というより恋愛的な欲の乏しい凛大にとっては本来、桜夜はわがままなペットでしかない。強いて言うなら仕事仲間、契約というものを考えると従属だとか配下とも言える。ここまでデレデレな桜夜を見ても特に何も感じることはなかった。桜夜はここまで好きだと訴えているのに。

 「分かった分かった。休憩時間だけ会話してあげるから。」

 それを聞いた桜夜は思い切りガッツポーズ。凛大は、それを確認したうえで、家を出た。

 「行ってらっしゃーい!」

 凛大が聞こえているかは分からないが、桜夜は大きな声で凛大を見送る。

 『これは私の第二の人生。こんなにも大好きなんだ...いつかきっと...』

 誰もいなくなった家の中に、一匹の猫の...一人の人間の恋の決意が轟いた。


 『今何考えてるんだろう...』

 凛大もデリカシー皆無な訳ではないし、見たいわけではないから無駄に桜夜の思考を読んだりはしない。あえて、想像してみたりもする。自分の創造力や感受性のためにも。自分に欠けているモノに気づくこともなく、凛大は自転車を漕いでいた。


 「おはよう!」

 いつも凛大は一番最初に教室に入る。しかし、今日は珍しく違った。

 「...おはよう...」

 別に理由もないがなんとなく不審に思ったのでそのまま態度に表した。

 「そんなに変に思わないでよ。私だって早く来る日くらいあるよ。」

 アキだ。普通に考えて変じゃないが、アキだからこそ不審に思う。でも正直、実際のところ何もおかしなところはないので気にせず自分の席に座る。

 「最近、なんか明るくなった?」

 そう言うアキに、

 「そんなことないけどなんでそう思った?」

 問い返してみる。

 「なんとなく。前より喋ってくれるし...」

と、それなりの返答が帰ってきた。確かに、昨日声をかけられて会話をするまでまともに会話したことなかったように思う。言ってしまえばクラスメイトの名前なんて覚えていない。毎度その場で超能力で調べている。何度も名前を調べる人は覚えるが、なかなか会話しない人は、一切覚えていない。

 「そっか...」

 僕はそれっぽく会話を終わらせようとした。しかし、阻まれた。

 「違う違う!そんなことじゃなくて!!」

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