第8話 借りる猫の手

 「お前か、私の息子を幸せに導こうとするのは」

と、巨大な猫が言う。

 「こんな街中の茂みに隠れてるんですね。バレそうな場所ですけどバレないんですね」

と、巨猫の話を無視して会話する。

 「なんで無視した?」

と、若干しょんぼりした感じで言ってくる。

 「どうやって依頼したのか知らないですが、どんな依頼ですかね?」

 その猫が何者でどんな生物かを知ったうえで質問する。

 「私の面倒を見なさい。そして私を幸せにすること」

 「えっっ???嫌です」

 即座に答えが出た。とにかく嫌だ。できる限りの依頼は受けるがこの依頼はメンドクサイ...

 「この私、カミネコさまを世話できるのだぞ。光栄ではないか?」

 カミネコ様。それは猫の世界のなかで高い地位を持つ猫。そして、現実ではありえないとされる超能力的な力を扱える猫。そんな猫の一匹が、理由は分からないが飼われようとしている。

 「どうしてそんなに、飼われたい?」

 「私も、一匹の猫として生きたい。お主ならできるだろう?私を一匹の猫として扱うのも簡単じゃないかと思うが?」

 「簡単に言わないでほしい。存在がすでに常識を超えているし、正体を知った僕がほかの猫と同じようにあなたを飼うなんてできないと思わないですか?」

 カミネコ様は、悔しいような悲しいようなそんな表情をした。諦めないような、そんな顔。見覚えのある心情。それは、いつの日か自分も持ったような感情な気がした。

 「幸せになりたい...という依頼でよろしいですか?」

 無意識にその言葉は出ていた。理由はあるのだろうけど分からない。直感的な何かが、自分の中からその言葉を口から発せさせていた。

 「えぇ!この地位を捨ててもいい。あの子や他の猫が歩むような幸せ、地位に縛られない人間との生活。普通じゃなくていい、私にもカミネコではなくネコとしての一生を過ごさせてほしい!」

 すべてを捨ててでも飼われたいらしい。その思いは大切にしたいと心からそう思った。

 「僕が決めた報酬を払ってもらうという決まりになっています。念のために先に報酬というか代償的なものをお話ししておきましょう。たった3つです...」

 外は空が赤く染まって夕焼けが綺麗に見える。僕は家で後回しにしていた課題に取り組む。部屋の隅には一匹の黒猫が寝ている。それは小さく、他の猫と同じくらいの大きさで世界中探せば、たくさんいるだろう外見をしている黒猫。

 3つの報酬。カミネコ様をネコとして迎え入れるための条件。それは、カミネコ様であるという事実は変えてはいけない。カミネコの一匹であるという今の、これからの真実を持ち続けないといけないという現実を押し付けるもの。それは、ただの猫でないということから、僕の元に来るからこその特別な役目を与えるというもの。

 それは、僕のためのもの。

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