第5話 猫の手も借りたい<前編>

 「千里眼」

 その言葉を放つと、視界にあるすべてが脳内に流れ込む。

 「なんか多すぎでしょ...」

 周辺では異常に多いの”猫”の存在を確認できる。そこから、対象と思われる猫を探していく。千里眼と言うよりは、”見たいものを見る”というような力に近い。見ている猫から、白い毛の猫を絞る。

 「2匹...」

 おそらく依頼の猫と思われる猫が1匹。そして...

 「なんか普通じゃない猫が1匹か...」

 その猫は普通の猫には感じられない、穏やかで人間っぽいオーラが漂っていた。

 「後で、確認してみるべきかな...」

 少し不安に感じつつも先に依頼の猫を捕まえに行った。意外にもあっさり捕まってくれてそんなに苦労はしなかった。強いて言うなら、ちょっと汚い。依頼対象の猫は、路地裏のごみ箱の陰に隠れていた。そんなに人に対して警戒心がなく僕に対しても怖がる素振りはあまり見れなかった。人間に何かされたりはしていないようだった。それがなにより、安心と喜びである。もし何かされていたら、人間不信になっていたかもしれない。そうなった場合、依頼主のもとに引き渡すことも難しくなるかもしれなかった。それも含め、不幸中の幸いってやつだ。病気とかも大丈夫そうだけど、とりあえず白いはずの毛がちょっと汚く見えるから、体は洗わなければいけない。

 「じゃあ行こうか」

 「にゃぁ」

 猫に語り掛けながら移動する。周りから見たら、猫に語り掛ける猫好きの高校生ってところだろう。猫は嫌がらない。一応、テレパシー的なのも使える。正直猫語は分からないけど、感情はだいたい読める。

 「さっきの謎の猫のオーラはどこかに行ったな...」

 「にゃん」

 人間っぽいと思っていた猫のオーラはどこかに消えてしまった。移動したというより”消えた”のほうが合うとは思う。そんなことを考えていると、抱っこしている猫が、ほんの少し不思議な感情を示した気がした。まあ、何もなかったと気にせず家に帰ることにした。

 まだ太陽は明々と街を照らしている。母も家にいないだろう。仮に帰っていたとしても、猫の一匹くらいなんとでもいえる。一軒家だし家族みんな猫嫌いじゃないと思うから大丈夫だろう。

 家に帰り着いたが、案の定、母はまだ帰っていない。とりあえず風呂場に向かう。白猫はあまり嫌がらなかった。水が苦手な猫も多くいるとか聞くけど、おとなしい子でほんとよかった。

 「にゃー」

 少し気持ちいいのかな?と思うくらいには風呂を楽しんでいるようだった。

 水で流すたびに、ぶるぶる体を震わせ水を飛ばす。まるで犬のようだ。でも、汚れが落ちるにつれて、だんだん見えてくるのは綺麗な白い毛。ここまで”白”なのはなかなかないんじゃないかと思うくらいには、美しい白だった。

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