聖都シュリティウム/観光気分

「さーて!何かおいしいもの食べようよ。ネミルは何か知ってる?」

「そうですね。ぶらぶらしてお店を探しましょう。」


 美食を求めて町をさまよう二人の聖職者。少し歩いて、レストランに入店することにした。


「おぉ~!いろいろある!すごいね」


 何ともなしに口に出す。この世界の食文化は麗奈のいた日本と大差ないように感じられた。建築様式は中世あたりで止まっていながら、食文化の進化は想像以上のものがある。


「あたしは決まったよ。ネミルは?」

「私も決まりました。店員さん!お願いします!」

「ご注文お伺いします」

「パスタを1つ」

「あたしはハンバーグで」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 店員が去っていくのを見送って麗奈は何でもないような疑問をぶつけることにした。


「ハンバーグじゃないんだね。ネミルは絶対ハンバーグだと思ってたよ。もしかして、追加しようと思ってたけどあたしが頼んじゃって言い出しにくかったとか?」

「いいえ。メニューにおすすめと書いてあったので、それで」


 雑談に花を咲かせながら料理の到着を待つ。聖女として世界を救うと決めた麗奈だが、日本にいた時と同じような文化に触れ、少し感傷的になってしまう。レストランの内装は白を基調とした色合いの石造りの建物。高級感の漂う雰囲気ながら、価格は庶民的だ。昼時ということもあり客入りも多く繁盛しているようだ。客の多くは聖職者たち。それなりに人気店のようだ。


「お待たせいたしました」


 ハンバーグとパスタが運び込まれる。二人は夢中でその味に舌鼓を打つのだった。 ハンバーグは想像していたよりも大きく、価格設定と照らし合わせてもお得だった。ソースを絡めて肉の塊をナイフで手ごろな大きさに刻んでいく。フォークで突き刺し口へ運ぶと、肉のうまみと肉汁がソースと混じり合うことで至福の味を作り出す。デミグラスソースは日本のそれより少しだけ味付けが濃いようだが、大きなハンバーグに対して負けないだけの味付けとなるとこの味付けになるのだろう。一切妥協がない。ハンバーグとともに幸福感をかみしめる。どんな世界でも食べなければ生きていくことはできない。美味な食べ物があるということは、明日を生きる理由につながっていくのだ。


「ねえネミル。このハンバーグおいしいよ。左側食べてないからちょっとあげる」

「え、いいんですか?」

「もちろん。せっかくだからシェアしないとね」

「じゃあ私のも少しどうぞ」


 麗奈はパスタを口に運ぶ。絶妙な茹で加減のパスタを味わう。絡められたバジルソースが舌の上で消えていく。高級感を感じる味付け。それでいて次の一口を求めそうになる。麗奈はこの瞬間、もう一度この店でパスタを食べようと心に決めた。


 それぞれのメニューを食べ終えて店を後にする。二人は幸せに満ちていた。

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