聖女の使命/浄力
麗奈はネミルと別れ、黙々と汚い部屋を相手に格闘した。脱ぎ捨てられていた衣服はすべて洗濯に持っていく。
「あの、急にこんな量ごめんなさい。これ、どうしたらいいですか?」
「あぁ……いったい何か月ため込んでたんですかレイナ様……」
麗奈は一礼してその場を後にした。申し訳なさにいたたまれなくなるが、かといってこのままにし続けても問題が大きくなるだけだったので、麗奈は罵詈雑言を浴びる覚悟で洗濯担当の元を訪れたのだった。
自室に戻って一息つく麗奈。しかし、聖女たる彼女には安息の時など訪れない。
「レイナ様!レイナ様を頼って、近隣の村の住民がやってきてます!今日こそはお願いしますよ!」
声の主は扉の向こうから麗奈を呼ぶ。息をつく間もなく、部屋の掃除もままならない中で麗奈はまとまらない思考と感情のまま廊下へ出た。
「レイナ様。よかった。今日は出てきてくださったんですね。客人が待ってますから食堂へ行きましょう」
四十代半ばくらいのシスターの後ろを歩いて目的地へ向かう。
食堂の扉を通ると、三人の村人が待っていた。
「レイナ様!どうか助けてください!お願いします!」
「え、えっと、何があったんですか?」
村人たちの表情や声などから、よほど切迫している様子が感じられた。
「私たちの村の畑が、魔獣に襲われてるんです。どうか助けてください。お願いです!」
「……魔獣ってなに?それ、あたしでなんとかなりそうな話?」
「レイナ様、魔獣とは、野生の獣が何らかの力を得て変異したものです。魂まで汚染されていて、普通に命を奪うとそこら中に呪いをばらまくんです。村人たちの話では、協力して魔獣を駆除したそうですが、呪いによって土地が汚染され、作物が育たないそうで。レイナ様に土地の浄化を願いに来たそうです」
麗奈は理解が追い付かないままシスターの話を聞いていた。
「魔獣の脅威に対抗できるのは、特別な修行を積んだ聖者のみ。中でも信託を受けたレイナ様は、この世界で並ぶものがいないほどの
「要するに、あたしがなんかバーッてやんなきゃならないと」
麗奈は困り果てていた。聖女が災厄とやらから世界を守らなければならないことは司祭から聞いていた。それでもこんなに早く難題にあたってしまうとは考えていなかったからだ。
「お願いです聖女様!魔獣の死体がばらまいた呪いによって土地は汚染され、呪いをたどって魔獣たちが群れを成して現れ脅威が広がってしまったんです。こんなことになるとは知らず、駆除してしまった我々に非があることは承知しています。ですがどうか助けてください!」
麗奈は聖女ではない。修行を積んでもいない。ゆえにシスターが話していた浄力などという力を使うことはできない。それでも。助けを乞う人たちを放っておけるほど薄情ではなかった。
「……わかりました!任せてください!」
「ありがとうございます!」
「さすがはレイナ様ですね。聖女としての素晴らしい活躍、私もここで祈っています。どうかご加護がありますように」
麗奈と村人たちはシスターと別れて、馬車で村を目指すことになった。期待されているものを何一つ持たない聖女のふりをした女子高生に魔獣の浄化が成せるのだろうかと、馬車に揺られながら麗奈は頭の中を心配事で覆いつくしていた。
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