第十四話 漆黒の霧と太陽光
《現在・自宅、リビング》
「うーーーん。そんなことがあったのねぇ。」
小澤先生は紙に私の書き記した文を読み終えて言った。続けて小澤先生が答える。
「結局華奈ちゃんが自殺した原因はわからないのかぁ。」
私はうんと頷く。母さんが少し悲しい顔をして言う。
「実はそれから翌年して、葦原先生、華奈ちゃん家の大家さん、当時の小学校校長先生、担当した刑事さんが1年ごとに失踪したんです。」
「失踪!?」
先生の身体が上に起き上がる。先生は徐々に表情を平静に保っていき、黙り込んだまま考える。数秒して答える。
「それは妙ですねぇ。1年おきに且つ遺体を直接目にしていない校長先生まで。」
「えぇ。この4年で事件に関わった者達が行方不明になっています。今年で5年目。順番的に私達が何らかの形で今年中に行方不明になるんじゃないかと不安でいっぱいです。12月もあと3週間。人生のタイムリミットが近づいている気分です。これも助けれられなかった陽子さんと華奈ちゃんの呪いのせいなのでしょうか。」
母さん…。
「大袈裟よ!」小澤先生が突如切り出す。
「呪いだなんて。単なる思い込みにしか過ぎないわ。私はスピリチュアルな事柄は好きだし抵抗感はない。けど呪いなら非現実味のある解読不可能な証拠があるはずよ。失踪だけでは済まず、殺されて遺体が見つかる。また、誘拐だったとしたら確証が得られるわ。警察が動いてないのも気になる。」
それでも怯え震えてる母さんの背中を大丈夫だよと手を添える。私は思い切って口を開く。
「わ、私は、だい、zいy、おうぶです。」
そう、今の私は自分でもビックリするほど恐れを抱いていない。毎年あの事件に遭遇した人たちがいなくなるのを聞くと、悲しいし怖い。
中学の時、内心怯えて過ごしていた。高校に入学し、「もしかしたらこの高校であの事件に精通し関係者を失踪させた犯人がいるのかもしれない。」と。実は学校生活への不安と同時にどこかで抱いていたのかもしれない。
けど、高校初日にカヤと出会う。
それ以降会うたびに、ずっとあった見えない恐怖が薄れていく。いつしか、カヤの本心を受け入れて愛せるようになり、脳裏にあるはずの恐怖は自然と浄化されていた。今でも、あの凄惨で悲観的な日は忘れられない。それでも、あの最悪な日すら忘れてしまう、衝撃的な日を私は知っている。親友への突然の告白とキス。あの時はまだ同性に対して自分の体に触れられるのは悍ましかった。背中からゾワッと鳥肌が立っていたのは鮮明に覚えている。けど、唯一学校の友達であり、カヤにもカヤなりの苦悩があることを聞いたら同じ"人"なんだと実感し受け入れられた。次第に打ち解き、心を通わせ、楽しみ、支え合う。これほど素晴らしい日々を送るのは生涯滅多にないだろう。
今、漆黒の霧に包まれていた私の心は輝かしい太陽に照らされている。
カヤのことを思い出しているとなんだか笑顔になる。私が笑顔になって答えたのかリビングの雰囲気が少し和やかになる。
小澤先生も表情を柔らかくして言う。
「流石、サナは強いわね。」
母さんも呼応するように答える。
「ええ。」
小澤先生が一息ついて言う。「まっ、とにかく。サナが無口になった原因は、サナが小学生の頃の事件によるトラウマが大きいわね。直前まで一緒に過ごしていた友人が突然理由もなく去る。それも遺体で。となると、やはり…。」
先生は予想が的中したかのようにウンウンと頷く。そして、口を開く。
「サナさん、トマト好き?」
えっ?
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