第十三話 永遠の疑問・五年前

「はい。」

葦原先生が話をする。

「その頃は陽子さんは優しかったですし、特に言動がおかしいようには見えなかったです。ただ…。何かを諦めたような、感情がない感じではありました。あの時から気づいていれば…。けど、華奈ちゃんは普通でした。」

警察の人がメモを取る。

「なるほど。」

「確かに学校では周りに馴染めず普段から暗かったです。でも、サナちゃんと一緒に過ごしていた時の華奈ちゃんは元気でした。」

すると、葦原先生の話を聞いてか、お母さんが私に顔を向けて話す。

「サナ。何か華奈ちゃんから聞いてない?」

……。無言のまま私は首を横に振る。

「そう…。」お母さんがその場にいる皆に話す。

「でも、華奈ちゃんはよくうちの家に来てサナと遊んでいました。とてもしっかりした子だったし、サナも華奈ちゃんと一緒に遊ぶのが楽しいとよく言っていました。」

葦原先生が少し驚いて言う。「そうでしたか…。」

「では、大家さんは何かご存知でしたか?」

警察の人が問う。大家さんが答える。

「正直こんな事情があったのは知りませんでした。ただ、母の陽子さんから2ヶ月前、『今月の家賃を引き延ばしてくれないか?』と電話で持ちかけられました。もちろん、僕は承知して引き延ばすことにしました。しかし、ひと月経っても家賃は納めてくれませんでした。心配になった僕は念の為、陽子さんの家に寄りました。玄関でなぜ払わなかったのか?と問い詰めると、陽子さんは急に鬼の形相で僕を怒号し、『出てけ!!』と追い返されました。僕はびっくりし、このまま問い詰めてもどうしようもないので、しばらくしてまた訪問しようと待ちの姿勢を取りました。多分、この時既にパートの仕事を辞めていたと思います。それから2週間経って知らない番号から電話が来て、掛けてみると葦原先生でした。そして、あの日現場を駆けつけて二人を見たに至ります。」

警察の人が少し考えて答える。

「ふむ。では、これらの話をまとめてると、まず陽子さんは夫からDVを受けており、DVを受けてもなお、陽子さんは夫に対して嫌悪しておらず大好きだった。その後、近隣住民の通報によって夫が捕り最終的に起訴されて家にいなくなる。陽子さんは夫がいないことに耐えられず、精神的に参っておかしくなる。月日が流れ、葦原先生が陽子さん家に訪問する。その時の陽子さんは無気力であり、恐らくパートの仕事も辞めていた。稼げずにただ1人で娘を育てていかなければいけない。次第に家賃を引き延ばし、これ以上生活が困難になため、自殺した。という感じでしょうか?」

皆黙って聞いており、教室は静かなまま。警察の人は皆一人ひとり見て一呼吸おいて話を続ける。

「ただ、あくまで私の推測です。実際、生活することが困難なら生活保護を受けて多少の生活を維持したまま娘さんを学校に通わせることはできました。んーー。生活保護をしらなかったのか?いや、そもそも生活していく気力がなかった。それも心酔してた旦那さんが近くにいなかったから。また、捜索で遺言のような自殺に関連する物的証拠はなかったですし、近隣住民から聞いてもDVを受けていた外的状況しか把握できなかった。とにかく、入念に何度も調査しましたが、遺体とわずかな情報しか得られず、自殺と断定しました。結局、本人達がなぜ自殺の選択をしたか、その真意は本人達にしか知りません。精神的に自立していたはずの娘である華奈さんも、一緒に自殺したのも不思議です。必ず誰かに助けを求めたはず。追い込まれていたなら尚更……。」

確かに、何で華奈ちゃんも…。私の家に来たなら何度も事情を話せたはず。そしたら、お母さんと私で何かできたかもしれない。いや!そんな考えをしてたから華奈ちゃんは死んだ。私がもっと華奈ちゃんに歩み寄れば良かったんだ。そしたら今頃、私の隣で話ながら学校帰っていたかもしれない。きっと………。目が熱くなり涙が頬に流れていく。私を見て心配したのかお母さんが言う。

「サナ…。」

教室は静寂したまま。校長先生が切り出す。

「と、とにかく、これから個々に刑事さんと面談してきます。以上で警察からの捜査協力は終了します。辛いでしょうが、お互い踏ん張り時です。」

皆やるせない疑問を抱いて、呪いを残して、解散し個々に面談した。窓から太陽はもうなく、闇に包まれていた。まるで、私たちの気持ちを表現するかのように…。


《半年後》

私は六年生になった。

クラスのメンバーはほとんど変わらず。私はあの赤い床を見て以来、日常では口を閉ざしたままだ。何度も色んな病院やメンタルクリニックにも行ったが、改善できそうにもなかった。結局2人は何で自殺したんだろう。母、陽子さんならまだわかる。精神的な面が要因なのは多分間違いない。

でも、華奈ちゃんは?

父がいなくなっても変わらず元気だった。なのに、死んだ。母から自殺を強要された痕跡もなかったとのこと。なんで?母を愛してたから?それとも何かが嫌だったから?どうして?私は今日も朝、学校に通う。

「……。」

無言のまま玄関のドアを開けて。永遠に回る疑問を残して。

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