第十二話 悲劇・五年前

先生がドアを叩く。

「〇〇小学校の葦原先生です。華奈ちゃんにプリント届けに来ましたー。」

………。

「いないのかなぁ?」

もう一度先生がドアを叩く。

「〇〇小学校の葦原先生です。華奈ちゃん今日来てなかったのでプリントを届けに。」

………。

「いないんですかね?」

「うーん。留守なら仕方ないけど。」

何だろう。嫌な感じ。とにかくいないなら仕方ないのか。刹那ドアから急激な異なる臭いがした気がした。

「ん?どうしたのサナちゃん?」

「先生。何か変な臭いしません?」

先生も鼻をすませる。

「確かに。何か臭い。」

すると、突然先生はハッと何かに気づいたようだ。

「一応、調べてここの大家さんに電話して来てもらうね。多分あり得ないと思うけど。」あり得ない?

先生はポケットからスマホを取り出して調べ電話を掛ける。

「あ、もしもし。私〇〇小学校の葦原先生です。ここの家に暮らしている生徒を担当している教師なんですが、その……、」

淡々と話し礼を言って電話を切る。

「ひとまず大家さんすぐ来ると。待つけど大丈夫?」

「はい。特に大丈夫です。」

5分ほどして走って大家さんが来た。50代ほどの男性だ。

「すみません、わざわざ。」

「いえいえ、僕も何となく気になってね。では。」

大家さんは鍵を胸ポケットから出し開ける。一体2人は何を感じ取ったんだろう?この頃の私にはさっぱりわからなかった。鍵をかけドアを開ける。

ギィ。玄関に入る。

突如ドア前にした臭いが強くなる。

「うっ。なにこの臭い?」

「もしかして…。先生方は一応ここで待機して。僕が見てくる。」

3人して腕で鼻に来る臭いを塞いでた。大家さんが呼びかけて中に入っていく。小さな部屋へ入ってく。すると、大家さんの叫び声が聞こえた。


「うわぁぁぁぁぁー!!!!」


!!何!?

「っ。サナちゃんは待ってて。」

葦原先生が小走りで小さい部屋に入る。すると、先生の高い叫び声が聞こえてきた。


「わぁぁぁ!!!」


私も悲鳴に驚き、思わず先生達に急いで向かう。

そこには。

床一体が血だらけだった。華奈ちゃんとそのお母さんが倒れていた。

「け、警察に電話!」

大家さんがそう言いながら電話を掛ける。私はあまりの光景に茫然と見てた。先生も。ハッとしたのか先生は私に気付き、怯えた顔のまま手を繋いで一緒に外に出た。ブルブルと先生の手はは震えていた。私は現実感がないのか思考がなかった。ただ驚いたまま…。


《翌日》

警察の調べによると2人とも明らかな自殺だそうだ。母親は両手首と首に深く切り傷を入れ、娘は片方の手首に深い切り傷と睡眠薬を大量に服用していた。私は昨日あの現場を見た直後の記憶がない。今は家のソファで座って。ショックで言葉が出ない。泣きもしない。何かが抜けたような感覚だ。ぼーっと。

なんで?

華奈ちゃんと遊んだのに?どうして?どうして今はいないの?何であんな姿に。うつ伏せに倒れて。血が広がっていて。リビングは静かに時間が過ぎた。


《二週間後》

私と先生は無事学校に通うことになった。先生もショックだったらしく学校側に休みを貰っていた。私は葬式に参加できなかった。ただただ家に閉じこもっていた。

誰にも話さずに。

とはいえ、気分が取り戻して来たのは事実。久々に今日から登校した。教室に入ると皆いつも通りだった。

あれから、二週間。

そういつも通りにしようと私のために強がっているのもかもしれない。後ろの席に座る。3つ前の席はなかった。別の人になっていた。華奈ちゃんの机と椅子はなかった。チャイムが鳴り先生がドアを開ける。いつも通りだ。朝礼の時間となる。いつも通りにまた、学校が始まる。私は明るい面影を忘れて無口のまま。


《授業が終わり放課後》

帰りの挨拶をして皆教室を徐々に出ていく。私はランドセルに教科書を入れていく。すると、先生が近寄って話しかける。

「…サナちゃん。ちょっと別の教室で話さない?あのことで…。」

………。

コクリと頷く。無言のまま人気のない教室に入る。そこにはお母さんと大家さんと校長先生、そして警察の人がいた。仕事を早めに終わらせて来たようだ。

「あ、れ?お、母、さんも?」

「サナ…。」

校長先生が言う。「まず、今日ここに来てくれてありがとうございます。辛かったでしょう。」

……。皆暗い顔になる。校長先生が続ける。

「今日みなさんに集まっていただいたのは警察から明らかになった詳細を伝えに来ました。」

すると、警察の人が話す。

「まず、これからの話すことは華奈ちゃんとその母陽子さんについてです。聞きたくない者は無理せず退散して下さい。」

………。

「…いないようですね。話してる途中気分が悪くなったら遠慮なく言って構いません。」

皆悲しみに溢れた顔だった。日が傾き、影ができる。警察の人が話す。

「まず、2人はDVを受けていました。近くの住民によると父親からだそうです。」

えっ?知らなかった。話を続ける。

「最初は全く問題なかったですが、ある時から毎日父の怒号が飛び交い、ガラスの割れる音まで聞こえたほどと。おそらく父は会社が倒産となり退職した影響でしょう。陽子さんもパートで入っていましたが、それだけでは生計が立てられなくなりました。しかし、傲慢な父は自分のお金は母と娘には使わなかったそうです。よって揉めだし暴力に走った。その後見ていられなくなった近隣住民は警察に通報し、証拠が抑えられてその父は逮捕されました。起訴され実刑判決となり今は刑務所にいます。しかし、母、陽子さんはそれでも夫が好きだったらしく、夫がいないのは耐えられなかったそうです。陽子さんは精神的におかしくなり、近隣住民が訪れても追い返したと。それから半年経ち、4月、葦原先生が家庭訪問で寄ったと。」

警察の人は葦原先生を見る。

「はい。」

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