第十一話 思い出したくない過去・五年前
「…喋れないことです。」
ホッとした。そっちのことかー。
「…サナが喋れないこと。」
母さんは先生の言葉を繰り返した。
「ええ。お母様も娘さんが喋れないことはこれまで理解しており色々と苦労を強いられてきたはずです。本日お邪魔して頂いたのは、その過程と解決を私なりに推測し、今日伝えに来ました。」
解決策。
「やっと、目星がついてきたんですね。小澤先生。」
目星?
「はい。サナさん、実は4月下旬に一度あなたのお宅にお邪魔してお母様からあなたが喋れないことを聞いてきてました。」
そうだったんだ、いつの間に。
「その際サナさんについて色々聞きました。」
はぁ…。神妙な顔をしていると自分でわかりながらも頷く。先生が一つ置いて息を吸い吐く。
「では、単刀直入に聞きます。サナさん。あなたが喋れなくなったのは大体どの辺りですか?」
喋れなくなった時?
うーーーん。
私は目を閉じて頭の中にある記憶を掘り起こす。眉間にシワが寄る。中学は入学してからずっと無口だった。小学校?何年生だ?確か三年生の頃は普通に話せた。四年生?いや、五年生?あれ?五年生の時って私何していたんだっけ?それに六年生の時は既に無口だった。なのになんでクラスの皆は私を理解して接してくれたんだろう。四年生の時もよく友達と遊んでいた。
友達…。
小学生の頃の友達はいた!1人だけ!
「ハッ!!あ……。」
思い出した!!!!
五年生の時、あのことがあったんだ。あの、"事件"が。
小澤先生は私を見て言う。
「何か、思い当たることがあるの?もし、小学生の時にあった出来事ならお母様から既に聞いてる。無理せず遠慮なく、伝えて欲しいです。」
「華奈ちゃん…。」
私は無意識に彼女の名前を挙げていた。
《五年前・マナ、小学五年生》
晴れた朝、青い空。今日も明るく元気に!
「お母さん、行ってきまーす!」
私は無我夢中で家を出て学校に向かう。今日も華奈ちゃんといっぱい話せる。華奈ちゃんとは三年生に入って同じクラスになり仲良くなった。お互い小学校に入ってから友達がおらず、困っていた。そんな時三年生になって初の体育の授業で二人一組のペアを作ることになった。たまたま私達2人だけ残りペアを組むことに。
「あ、どうも。」
「こちらこそ!よろしくね!名前、なんて言うの?私はサナ。」
「わ、私は華奈。」
この出会いから、私達は意気投合した。
見ているテレビ番組、アニメ、国語と体育が得意なこと。好きと得意もたまたま一緒だった。また、この頃の私はとても明るい性格だった。華奈ちゃんは貧乏な家庭で育った。そのため、放課後はよく私の自宅に来て一緒に遊んでた。物静かだけど、どこか私と似てる。不思議だった。姉か妹がいればこんな感じなのかなぁと思っていた。
あっという間に2年経ち、五年生の秋。
いつも通り教室に入り本を読んで華奈ちゃんが来て話すの待つ。
が、来ない。
チャイムが鳴って朝礼の時間になっても来ない。いつも後ろから見える華奈ちゃんの席はポツリと佇んでいる。どうしたんだろう?一度も休んだことはないのに。一時間目が始まるまでの休憩時間で担任の先生に聞いてみる。
「先生。華奈ちゃんって今日は来れないんですか?」
「ん。うーん。わからないのよねぇ。親御さんから電話来てないし。こっちから掛けてもつかないし。サナちゃん、華奈ちゃんと仲良いもんね。放課後プリント届けに行ってくれる?」
「わかりました。先生。」
「ありがとう。」
不安を抱えつつ放課後になる。先生からプリントを貰いクリアファイルに入れランドセルにしまう。先生が不安そうな顔で言う。
「何度も電話したけど結局向こうから返事なかったわ。何か嫌な予感がする。」
え、先生?
「えっ。まさかー。体調が悪いだけですよ。親も忙しいらしいし。」
「そうかなあ?サナちゃんには言うけど、今年の4月家庭訪問で華奈ちゃんの自宅にお邪魔したの。」
「うん。」
「びっくりしたわ。家が貧乏で部屋はとても古いのよ。父はいなくて母だけで必死に育ててきた。」
父がいないのは知っていた。私も父がいなかったからよく華奈ちゃんと想像して理想の父親像を話していた。
「母の方は話してみて優しかったけど全体的に顔が暗かった印象かな。親子だから物静かなとこは似てるんだと思ってた。でも、何か、不穏な感じ?やばくなるような雰囲気がしたの。私の勘だけど。」
「そうなんだ。じゃあ、先生も一緒にプリント届けに見ていきましょう?」
「そうだね。丁度今日は仕事が少ないし、寄ってみようか。」
そうして、先生と歩きで華奈ちゃんの自宅に向かう。10分ほどで到着した。古い一階建ての家。インターホンもない。ドアの前にいく。コンコンコン。先生がドアを叩く。
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