第十話 知ってしまった弊害

私達は誰もいない橋がある川沿いに来た。

自転車を止め、川沿いの土手道に座る。お互い無言のまま。風と川の流れる音が聞こえる。虫やカラスの鳴き声もする。私はどうしようかと必死に考えていた。するとカヤが言う。

「私達…。どうすれば良いの?」

………。

「わ、私も同じ、こと、考えて、いた。でも、きっと、大丈夫だよ。」

そうだ、大丈夫だよ。私は続けて言う。

「もし、なん、か、あったら、おざ、わ、せ、んせい、が、」

あれ?うまく話せない?

「な、…ん…っと、、……。」

え!?口が思うように動かない!?口が閉じられていく。

「サナ?」

カヤが私を見る。涙目だった。かっ、ぐっ、今っ!カヤと話さなければ!

「サナ?どうしたの?」

ぐっ。

「まさか、また喋れなくなったの?」

うんと頷く。

「っ。私のせいだ…。私が、サナと仲良くなって巻き込んだから。私が、同性愛者だから!」

そんな!そんなの言わないで!!

すぐに腰のポケットからスマホを取り出してラインのメッセージを打ち送信する。

「カヤ!そう責めないで!私は巻き込まれたなんて全く思ってないよ!」と。

ピコン!とカヤのスマホにメッセージ発着音が鳴る。カヤもメッセージを見る。

「ほんとに?」

うんと笑顔で頷き、再びメッセージを打つ。

「むしろ、私は嬉しいよ。無口なせいで中学の時は友達ができずにイジメや嫌がらせが3年間もあった。親にも正直に言えず、先生や優しい同級生にも相手にされなかった。ただひとり。孤独に耐えていた。けど今は、一緒耐えてくれる仲間がいる。それだけですごく心強い。」と。

「サナ…。」

そのまま打つ。

「だから!一緒に乗り越えよう!同性愛者が気味悪いだから気色悪いんだか知らないけど、そんなの死ぬよりマシ!私にとってカヤは、唯一初めて出来た友達で、親友で、彼女でもある!狭く暗い檻から助け出してくれた光そのものなの!だから、カヤも気にしなくていい。小澤先生も助けてくれるし。」

長々と打ち送信された文をカヤは見る。カヤは次第に明るい表情になっていく。

「そうよね。ずっと前から親友だもんね。ありがとう。やっぱりサナは強いね。」

うん!と強く頷くき、メッセージを打つ。

「大丈夫!良い日はきっと来る。今は無になる時!」と。

「プハッ、無になるってお坊さんじゃないんだから。」

少しムッとして打つ。

「ええ〜、結構良いこと言ったんだけどなー?」と。

自然と笑顔になる。

「さ、そろそろ帰ろう。サナ。」

うんと頷く。今日もカヤの家に自転車を漕いで向かった。家に着き、リビングにて向かい合わせに座る。カヤが言う。

「それにしても、まだ喋れそう?」

うーん。試しに口を開いて話そうとする。

「かっ、……っ。…。」

ダメだ。首を横に振る。

「うーん。一体何が原因なんだろう?きっと小澤先生なら何かわかるかもしれない。明日聞いてみよう!」うんと頷く。

私達は夕飯を食べて何もせず、私は自分の家へ一人帰った。ドアを開けて玄関に入る。母さんが歩いて迎えに来た。

「あら、おかえりー。丁度さっき担任の小澤先生が来て、今リビングにいるわよ?」

えっ!小澤先生が!?

私は頷いて足早にリビングへ向かった。いつも見るリビングに小澤先生がいるのは違和感が凄い。母さんはお茶とお菓子をテーブルに座っている先生と私に出した。

「あ、ありがとうございます。」

小澤先生はきっちりした姿勢で感謝を述べる。母さんも自分のお茶を置いて私の右隣に座る。

「さて、今日来たのは娘さんのサナさんについてです。」

えっ!!もしかして私とカヤのこと?やめて!それは母さんには秘密にして!

「……喋れないことについてです。」

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