第五話 距離
まだ手が震える。
カヤとキスをしたことを思い出すと、鳥肌が止まらなかった。私は今恐い。そこで初めて知った。私はストレートであり同姓と恋愛するのは不可能なんだと。座ったまま身体を丸く抱え込む。40秒ほどしてか、右の部屋のドアが開く。カヤはラフな部屋着になっていた。驚いた顔で私を見る。
「サナさん!?…ぁっ。」
後日、私はソファで抱え込んでいた時の記憶がないことを知る。
〈翌日〉
私は知らないベットで目を覚ました。
側にある置き時計は5時半だった。横を見るとカヤは床に布団を敷いて寝ていた。あれから一体?とりあえず起き上がる。一瞬躊躇うがカヤを起こす。
「カヤ。起きて。」
うーんと言って目が覚める。
「あー。おはようサナさん。」
お互い起き上がって歯を磨く。新しい歯ブラシを貰った。磨き終え、カヤは卵焼きを作っていたが、無言。そのまま、テーブルで盛り付けて食べる。
私はメッセージで「カヤ、いきなりで言いづらいけど、昨日私はソファでどうなったの?」
カヤのスマホから音が鳴って見て答える。少し無表情のまま。
「あの後、」あの後。思い出すと少し背中が熱くなる。
「私がリビングに戻って来たらソファにいるサナは身体を抱えて震えたままだった。私は必死に大丈夫?と問いかけてたら頷いてくれた。その後肩を貸してベットで寝かせた。っ。もちろん、サナには何もしてない。決して。」
私はうんと頷く。
「サナさん!本当に怖い思いをさせてしまいました!ごめんなさい!これからは"親友"としてお願いします!」
メッセージを打つ。「わかったよ。ちゃんと私も許しているから。これからも今まで通り、よろしくお願いします!カヤ。」と。
「うん!よろしくお願いします!サナ!」
そうして別々でシャワーを浴びて登校準備を済ませてそれぞれ別々に学校へ向かう。
自転車を漕いでいて私は考えた。
これからどうカヤと付き合っていけば良いのか。あのことを知っちゃったからには前のように後戻りできない。今日小澤先生に相談してみようか。校門が見えてきた。その後、私達はいつも通り接しながら授業を終えた。放課後、私はちょっと授業で聞きたいことがあるとカヤに言って教室を出た。職員室に入り、小澤先生の元まで訪ねる。パソコンをカタカタと乱雑に素早く操作していた。
〈同時刻・小澤side〉
あーーー。仕事が立て続けに増えるわーー。
とにかく、保護者説明会のお知らせだけは書き上げないとー。
すると、向かいの机にいる×組担任教員が私に言う。
「小澤先生、生徒が尋ねてますけど…。」
ん?生徒?隣を見る。
「ワァ!?……。いつからいたの?」
向かいの教員が言う。
「1分ほどずっと立ちっぱなしでしたよ?小澤先生凄い形相でパソコンに向かっていたので彼女尋ねて良いか困っていました。」
「そう、ありがとう。」
田中サナに椅子を右に回して身体を向ける。
「こんにちは。ごめんね。色々と切迫していて話しかけづらかったしょ?」
珍しいな。サナのことだ、何か重大なことを話したいのかもしれない。
「私座りっぱなしで疲れたから移動しましょう。ワガママだけど大丈夫?」
コクっと素直に頷いた。
椅子から立ち上がって今日は使う予定がない端の小さな会議室に移動する。ドアを開けお互い小さな机に椅子を掛けて座る。
「ふーっ、さて。サナさん。遠慮なくメモ用事かスマホで良いから私に伝えて良いわ。ここなら周りを気にする必要ないし。」
頷いてサナはポケットからメモ帳とペンを取り出してスラスラと書き上げた。綺麗な字、清澄だわ。
「実は…。友達が同姓愛者でした。どうすればいいのでしょうか。私にとっては初めて心を許した友達です。アドバイスお願いいたします。」と書いて見せた。
なるほど、恐らくその友達はカヤね。意外だわ。カヤは美人だからてっきり異性にモテモテでストレートだと思っていたわ。サナも美形だけど。
「うーん。正直言ってこれは難しい問題ね。ちょっと自分の話をするよ。4年以上前だけど私がアメリカにいた時はやっと同姓愛が認められてきた頃なのよ。その時有名なドラマや番組を通じて同姓愛者を大々的にメディアに取り上げられたのよ。私も大学にいた頃は必ず同姓愛者がいたわ。女も男も。別に偏見を持っていたわけではないし、実際会ってみると優しい人が圧倒的に多かった。」
うんうんとサナは頷く。話を続ける。
「彼らは小さい頃から異性が愛し合うことに疑問を抱いてきた。そして、家族や友人、世間からは理解されなかった。つまり、理解されないとわかってしまうから周りとの関係と距離を置いてしまい、他者を気にしてしまう。もちろん、気にせず同姓愛ですと表明する者もいる。要はそれぞれが自分に合った距離で他者と関わるの。それは同姓愛者だけに限らない。」
うんと頷く。
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