第四話 友達の境界線

あれから一週間が経ち、カヤと学校で過ごし上手く授業や行事を乗り越えた。

ただ授業に関しては勉強が苦手なカヤのサポートをしてるだけだけど。部活はお互い入るつもりはなく、どちらもバイトをやるつもりだ。カヤは家の近くのコンビニだ。週3日やるそう。ただ、私はバイトをしたいにもできない。会話ができないなら尚更。最低限のコミュニケーションさえままならない。よって、中学から同様に帰ったら家事に専念する。平日は料理や掃除だけでなく高校からは外に出て食糧買い出しもする。案外簡単で助かる。お金を自分で稼ぎたいなぁ。はぁ。


〈翌日水曜日放課後・小澤side〉

クラスのみんながいつも通りに机から立って帰っていく。

部活に向かう人や勉強する為にすぐ家に帰る人、友達とカラオケやショッピングなど行こうと楽しみに話しながら向かう人。中には図書館で勉強且つ読書をする人もいた。本当日本の高校生は青春だなぁ。ちょっと羨ましいわ。職員室に戻って授業やお知らせ等の事務を行う。私は仕事を終わらせるのが早いのか帰るのはいつも19時。他の教員は20時以降と忙しいそうだ。生徒の為に仕事をするのは良いがちょっとは休まないと死んじゃうよ。今日は18時といつもより早く終業した。

「お疲れ様でした。」

職員室を出て教室に忘れ物があったのを思い出す。

「あっ。教壇に自分のペン忘れたかも。」

一階階段を駆け上がって3階の○組教室に入ろうとドアを開ける刹那、二人だけ教室に残っていたのがドア窓から見えた。

おっと。

思わず下にしゃがんで隠れた。

あれは田中サナと佐藤カヤ?話し声が聞こえる。

「ねぇ、サナさんバイトは出来そう?」「…。」ん?カヤだけが喋っている。

「そうなんだ。仕方ないね。にしても家事なんて偉いね。」

「…。」

「ふーん。うん。うん。となるとさ、」「…。」

相変わらずカヤはお喋りね。恐る恐るドア窓から覗く。

カヤはサナに話していたが、サナは頷いたりスマホを触っている。サナはカヤの話を聞いてない?いや、喋れないからメッセージで返答しているのか。よく見ればカヤも自分のスマホを見ながら話している。

ふーん、考えたわね。

あの時、研究や講演で忙しくて、新任で入学式前日にこの学校に来た。だから直前までサナが喋れないとは知らなかった。教員として甘かったわ。忙しくあろうと生徒の事情を聞くのが私の優先事項。今後は気をつけよう。にしても二人とも仲良いわね。ま、ここは邪魔せず去ろう。

ペンの一本くらいなんともない。


〈同時刻教室内〉

「ん?今ドアに誰かいた?」

カヤが不思議そうにドアを見る。私も後ろを向いて見るがいない。

ラインで「勘違いじゃない?それより18時だからそろそろ帰ろう。」と打つ。

「そうだね。」

自転車を押していつもの道で黙々と帰る。カヤはいつものように鼻歌をする。するとカヤが言う。

「ねぇ。私の家に寄ってみない?」

えっ?メッセージで「なんで?」と。

「だって友達じゃん。それに私今一人暮らしなんだ。」

友達と言われて嬉しかった。

「家賃や学費は両親が払ってくれてるの。ちょっと中学で色々あってね。とにかく遠慮なく!」

うんと頷く。

一応母さんにいつもより遅くなると連絡した。全然問題ないと返事が来た。私とは真逆の方向にカヤの家があった。団地の3階にある。エレベーターに乗り3階廊下を歩いて部屋に着く。ドアを開ける。

「ただいっまー。」

入ると部屋は二人は余裕で過ごせそうなくらい広い。直感でわかった。もしかしてカヤは経済的に余裕のある家庭に育ったかもしれない。リビングに行くと、カヤは突然制服を脱ぎ捨てカバンを置いた。

「えっ?」

久しぶりに私は声が出た。

だが、その驚きを掻き消すように別の驚きが私に降りかかった。カヤは無言のまま次々と脱ぎ始め、全裸になった。窓から夕陽が入って神々しい。

そして、私に近づき目と鼻の先で言う。

「ねぇ。サナさん。友達ならいいよね。」

頭と背中からゾワっと鳥肌がした。

「っ。え。」

刹那唇に暖かい独特な感触がした。

こ、これは。キス!?

そんな、カヤは。カヤは。同姓が好きなの?私は無意識に拒んだ。手をカヤに前へ押し除けた。

「やっ、やめ…。」

「そう。……。私は、同姓しか愛せないの。もう言うのが遅いよね。ごめんね。」

確かに私達はもう手遅れだ。さっきの感触をしたせいで。

「やっぱり、嫌だよね。気持ち悪いよね。異性じゃなく同姓とするなんて。」

暗い顔をして俯く。初めて見た。

「友達なんて、大袈裟だよね。」

そんな、そんな友達になったことを避ける言い方をしないで。これじゃあ、私はまた孤独に。

「っ。友達、だよ!」

カヤは驚いて私を見る。

「カヤ、は、私の、友達。お、おどろ、い、た、」

「本当に?こんな私でも?」

私はうんと頷く。

「でも、わ、わた、しは、き、す、とか、カや、と、したく、ない。」

「そう。サナは私と普通の友達として。過ごしたんだね。」

私は首を横に振る。「しんゆ、う、と、っして。」

「…。わかった。これからはこうゆうことはしない。我慢する。サナの大切な友達として。」

「うん。」

カヤは制服を着替え直し、いつもの明るい表情になる。

「ごめんなさい!別の部屋で部屋着になってくる!」

カヤは急いで部屋に歩いた。

私は、ソファに糸の切れた人形みたいに座り込んだ。あまりの突然さに。心臓がバクバク鳴る。手も震えていた。カヤっ。私はあなたとただただ友達でありたい。

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