第二話 自己紹介…。

廊下側から縦で徐々に一人ずつ自己紹介をしていく。それぞれめんどくさそーにしたり明るかったり暗かったり緊張していたりと色とりどりに進んでいく。

どうしよう…。

私の番が来たら言わなければならない。でもきっと言えない。話せない。そうなると変に思われて嫌われる。緊張している人でさえ自分の名前を言えているのに。

ああ、私は中学生の時とまた変わらない学校生活送るんだ…。

みんなが自己紹介をしているのを見ている中、カヤが小さな声で私に話しかけてきた。

「ねぇ、サヤさん。できそう?自己紹介。」

突然声をかけてきたのでビックリし、私は思わず咄嗟に出来ると相づちを打ってしまった。

カヤは「そう…。」と少し意外そうに答える。

これで「できない」と真っ先にカヤに伝えたら、自己紹介すらできない幼稚な人だと絶対思われる。それにカヤに私を紹介してもらうのは迷惑をかけてしまう。また、クラスのみんなから私を変な人だというレッテルも貼られる。

やっぱり挽回したい!

何とかして自分の力で!

そう考えていると、カヤの番が来た。立ち上がる。

「佐藤カヤです!○×中学校出身で、趣味はランニングです!中学は陸上部所属で3000m走は全国大会で個人2位で準優勝でした!ですが高校からは陸上は続けません!」

あまりの凄さとキッパリさにクラスがどよめく。そんな陸上一本だった人が私の今隣にいるとは!

しかし先生は何も驚きはせずに「ふーん。そう…。」と受け流していた。

大人になると大して凄くないのかなぁ。カヤは笑顔のまま座り、後ろの人が立ち上がって発表する。4人発表して遂に最終列、窓側のみになった。前の人が発表したら私の番がくる。心臓の鼓動音が身体全体に響いてきた。

トクン。ドクン。ドクンッ。

前の人の発表が終わり座る。ようやく来てしまった。私は恐る恐る立ち上がる。一呼吸ごとの鼻息が大きくなる。緊張で手が震える。先生は何か探るような表情で私を見てくる。

お願い、そんなに見ないで。

「っ。っ。……。……。」

沈黙が4秒続く。他の生徒もジッと私を見る。カヤはニコニコとしたまま見ている。や、やばい。終わった。私はもう駄目なんだ。私は……。

すると先生が言った。

「田中サナさん、だよね。」

私は全力で先生の顔に向けて頷く。

「確か○○中学校出身だね。」

再び相づちを打つ。

「だそうよ。みんなとは初めてだから少し緊張しちゃってるみたい。はい、拍手!」

よ、良かったー。とにかく助かったー。

そのまま私は座り、後ろの者が立って発表する。先生の顔を見て目線が合った。当然のサポートをしたまでよと言わんばかりのアイコンタクトを取った。私は無言でぺこりと軽くお辞儀した。カヤは小さな声で話しかける。

「心配したよー。もう一瞬先生が遅かったら私がサナのこと紹介してたかもしれない。」

お気遣いありがとうございます。こうして無事に自己紹介が終わった。わずかな時間で寿命が5年は減ったような気がする。


先生の指示で各々適当に体育館へ向かう。私とカヤも席に立つ。教室の人数が減ってきた。すると、先生が教壇にある資料の準備を済ませて私の元へ歩き寄る。

「あっ、サナさん。大丈夫だった?」

頷くしか返答できない。

「やっぱりね。サナさん、もしかして喋ることができない?」

え!何で知っているの!?

「えっ!?先生すぐわかったんですか!」

側にいるカヤも驚いた。

「ええ。何となくそんな気がしたわ。サナさんは他人には気付かない小さな動きや表情から極度に緊張していることが伝わったの。また、私が自己紹介をすると言った時の反応も一番早くあなたが緊張した表情をしていたわ。」

「えーっ。先生何者なんですか?」

「ん。やけに馴れ馴れしいわね、カヤさん。」

「あ、いえ、ついすみません。ハハハァ。」

「まあ、そうね。時間の関係で私が自己紹介するタイミングがなかったとはいえ、後ですぐわかるわよ。さぁ、行った行った。」

「はーい。」「……。」

一体先生は何者何だろうか。それに今まで見てきた先生の中で一番若いかもしれない。体育館のパイプ椅子に座る。

カヤも隣で「一体先生って何者何だろう?」と私と同じ思いを問いかける。考え込んだジェスチャーで返す。

そうして、入学式が始まり、校歌や校長先生等の挨拶が終わる。最後の最後に今年度この学校に新しく着任した先生の自己紹介が始まった。校長先生が3人の着任した先生の自己紹介をして終わり、いよいようちの担任の自己紹介が来た。

「えー。最後に一年○組の担任、小澤純子先生を紹介します。小澤純子先生はアメリカのマサセッツ大学を飛び級で16歳で卒業し、その後4年間壮大学を飛び級で20歳で卒業しました。ちなみに日本の大学は飛び級が不可で本来18歳から入学可能ですが、小澤さんの偉大な功績から特別に16歳から入学許可を得ました。」

会場が大きく騒いだ。確かに、ここまで来ると総理大臣にすらなれる程の人材だ。でも、なんでここに?

「では、小澤さんお願いします。」

ステージの上でマイクを渡された。

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