第一話 初めての友達

《4月、入学式》

朝、新しい制服を着る。スカートは中学の時より少し長い。まぁ、短いのはなんだか嫌だったし丁度いい。家のドアを開けて外に出る。空は雲ひとつない快晴。何だか気持ちが明るくなりニコッと笑う。自転車を漕いで5分、あっという間に高校に着いた。自転車置き場に向かって置き止める。周りは知らない人だらけ。無論、以前いた中学校は家から電車で40分もするほど遠かった。高校は家から近く、家の近所に住んでいる者もここに来ている。ただ、私は中学が別の地域だったことから、近所の人達のことは全く知らない。玄関には人が群がっている。何やらクラスの配属先が貼ってあるようだ。早めに歩いて玄関前に向かう。玄関ドアの窓にクラス分けが貼られており、群がっていて後ろからではよく見えない。んー。どうしようかぁ。すると、玄関にいる先生らしき人が呼びかける。

「クラス分けは教室の出入り口や近くの廊下にも貼られていまーす。」

そう言われて周りは次々と校舎へ入って確認していく。前が空いて玄関窓に貼られていたクラス分けを横から見る。えーっと。あった。一年○組。○組、一体どんなクラスになるんだろうか。とはいえ、ここは有名私立で偏差値が高く人数も多いから、中学の頃みたいにイジメられる心配はないと思うが。

確認していざ校舎へ入り3階教室に向かう。

教室に入り色んな人がいたが、普通に安心して過ごせそうだ。すでに仲良くなって話し合う人がいる。焦る必要はない。これから友達ができればいいだけのこと。実際は出来たことないけど…。

カバンを棚に入れて自分の名前がある席に座る。窓側で前から2番目。ちらっと隣を見る。隣の席にいる茶髪ショートの女性は寝ていて薄っすらイビキ?が聞こえるようなぁ…。とりあえず気にせずに筆記用具やファイルを引き出しに入れていると、突然隣から声がした。

「ねぇ、運動って好き?」

ビクッとして全身を横に向ける。彼女は眠そうな顔だが私を見て話してきた。凄く顔が整っていて驚く。いや、いつ起きたの!?というか、何か答えないと。運動?私は運動なんて普段しないから好きじゃない。

答えたいけど口が開かない。

「っっつ…。」

開かない、どうしよう嫌われる。彼女はキョトンとした表情になる。不安そうな目で見つめる。私は焦って目が泳ぐ。

すると彼女は笑顔になり「大丈夫だよ。無理に答えなくていいから。ごめんね?」

うんと言いたいが相づちをする。ひとまず安心した。と思った矢先、彼女はまた問う。

「ねぇ、名前なんて言うの?私は佐藤カヤ。君は?」

「……。」

明らかに疑問の顔を浮かべて私をジーっと見つめながら待つ。

「…。」

「ん?う?ん?んん?」ニコニコした表情のまま疑問の声をあげる。

「……。」

すると、カヤは視線を落として私の机の上にある名札を見る。

「田中サナ。サナさんだねっ。」

私はうんと相づちを打つ。

「いきなり失礼かもしれないけど、もしかしてぇ、話すの苦手?」

うんうんと2回相づちを打つ。

「ふーむっ。なるほどー。じゃあ、ノートやスマホとかで文字を書いて伝えるとか?」

相づちを打つ。彼女は笑顔になり「よし!今日から友達だねっ!よろしくお願いします!サナさん!」と言う。

私は嬉しかった。初対面でこんなに明るく真摯に向き合ってくれる人がいるなんて。私は思わず笑顔になる。

カヤも笑顔のまま「素敵な笑顔だねっ!」と言う。

すると、チャイムが鳴って教室のドアから若い女性の先生が入る。

「さっ。一旦みんな席に座ってー。これから20分後入学式を体育館でやるけど、その前に一人ずつ自己紹介するわよー。」

ああ、そうだった。自己紹介どうしよう…。

背中と手に汗が滲んでいく。カヤはニコニコの顔をしたまま先生の言葉を聞いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る