第7話 手始めに、おじさんと美少女はSNSを始める
「というわけでだ。まずはSNSを始めよう」
次に会った時、俺はゆあにそう言った。ちなみに場所はダンジョンの前の広場だ。
ダンジョンでモンスターと闘う前に、まずは今後の作戦を話しあおうということになったのだ。
「SNS?」
「主にnstagramとwitterだな。特にnstagramは若者の中で人気だから、絶対必要だと思う。あとはiktokか? ゆあ、踊れる?」
「ちょ、ちょっと待って。なんかめっちゃ詳しくなってない?」
「昨日の間に調べたんだよ。iktokで同年代の視聴者を獲得できるのは強いぞ。一応調べたけど、ダンジョン配信者でiktokやってる人ほとんどいなかったからな」
「……す、すごいわね」
ゆあがじゃっかん引いているような気がするが気にしないことにしよう。
俺は興奮していたが、頭の中では冷静だった。
「まぁ、ゆあがどこまでしたいかによると思う。ゆるゆる配信をするか、それかストイックにやるか。あとは探索者としてどこまで極めたいのか。俺はゆあの考えに従うよ」
俺だけ楽しくなっても仕方ない。
というか俺はサブ的役割なわけだから、全ての主導権はゆあにあると思っている。俺は整備士として彼女を支えるのみだ。
俺の言葉を聞いたゆあが俯く。
けれど次に顔を上げた時、彼女の瞳に宿っていたのは強い光だった。
「私ね、初めて探索者になりたいってギルドで言ったとき、馬鹿にされたの」
「うん」
「ダンジョンに潜ってからもそう。こんな女子高生なんかにできるわけないって、すぐに死ぬってみんなに言われて、でもそれは心配じゃなくて嘲笑で」
「……うん」
初めてゆあを見かけたとき、確かに彼女は笑われていた。何となく、本当に何となくだけど自分と少し重なったから、俺は今でも覚えてる。
「私の夢は、世界一の探索者になること。それから、ダンジョン配信者になること。私、そのためだったらなんだってする。だから私を、支えて」
ゆあは真剣な顔でそう言った。
普段からわがままで、高飛車な態度を取りがちな彼女だ。そんな彼女がお願いするっていうことは、本気なんだろう。
「分かった。俺は整備士兼プロデューサーとして全力で支える」
「ぅん! で、まずはSNSアカウントの開設よね」
「あぁ、他の冒険者のを見る限り……」
「おじさんは口を挟まないで」
「えっ、」
ショックを受けて俺は思わず黙った。
やめてくれ、女子高生におじさんと言われるのは効くんだ……
「ほら、これでいいでしょ?」
「おじさんが調子に乗ってすみませんでした……」
ゆあが見せたスマホの画面には、可愛らしい絵文字とか特殊文字が散りばめられていた。
そもそもアカウント名が『ゆあ💍🤍𓂃𓈒𓏸@JK探索者』だった。
よく考えたらSNSでさすがに現役女子高生におじさんが勝てるわけがない。
「ほら、早速フォロワーがついたわよ」
「早いなぁ」
やっぱ女子高生で探索者ってなかなかいないからなぁ。
「一応witterだけじゃなくて、nstagramとiktokも開設しておいた方がいいわよね」
「後になるとめんどくさくなるだろうし」
「うーん、iktokは私撮ったことないから分からないし……ひとまずnstagramの撮影だけしましょうか」
「そうだな」
ゆあの厳しい審査をくぐり抜け、俺はいくつかゆあの写真を撮ることに成功した。
どれもがピカイチに可愛いものばかりだ。光がいい感じに差し込んでいたり……これがいわゆる盛れるってやつなんだろう。さすが現役女子高生。
「で、写真をnstagramに投稿してっ、と……これでいいわね」
「あぁ。後は自己紹介の初動画だけど……」
「それは今から私の家でしたらいいんじゃない?」
「うーん、いや、それは何と言うか……」
おじさんと女子高生が同じ部屋の中ってそれ倫理的にどうなんだ?
俺は何もする気がない。断じて何もする気がない。
だけどあまりにもアウトすぎる気がする。
もしコメント欄でキモイだとかロリコンだとかその他罵倒の言葉が溢れたら……
「私は別に構わないけど」
「ゆあが良くても世間的に見てアウトだから他の方法を考えようか」
「そうね……というか、ここでやればいいんじゃないの? 人も少なくて迷惑にならないし、貴方が懸念している問題も大丈夫でしょ?」
「確かにな。じゃあ、始めようか」
とりあえず撮れたので、一旦確認することになった。
2人でスマホ画面を覗き込む。
まず初め。お互いに自己紹介をして、それからゆあに質問するという形式になった。
今何歳? ステータスどれくらい? どうして冒険者になろうと思ったの? 将来的にはどうなりたい?……etc.
……うん。
いやちょっと待てこれはアウトではないか?
かなりアウトではないか?
そもそもおじさんが若い女の子に質問するっていうその動画形式がアウトだったんじゃないか……!?
胸の中でのたうち回る。
どうして俺はこんな形式にOKを出してしまったんだ。少し考えれば分かることじゃないか。
「いいんじゃないかしら」
対してゆあは満足そうだ。
けれども全然良くない。断じて良くない。
「というか貴方の名前、齋宮誠っていうのね。知らなかったわ」
そして名前さえ知らない男とタッグを組もうなんて言うな……!
だんだんゆあの危機管理能力が心配になってきたところで、俺はひとつ結論を出した。
「ゆあ、動画はそれぞれ別で撮ろう。それを1本ずつ上げたら動画数も稼げるし、いいんじゃないかな」
「齋宮頭いいのね! そうしよう!」
「呼び捨てかよ……」
思わずズッコケそうになったが、そもそも椅子に座っていたので何も無かった。
こうして初めての動画(前の動画は結局削除した)を無事に撮り終え、ゆあは無事ダンジョン配信者デビューしたのだった。
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