第6話 おじさん、ダンジョン配信を分析する

 あれからゆあには、スライムと、コウモリ型のモンスターを30匹ほど倒してもらった。犬型は彼女にはまだ早いだろう。でもステータスは多少上がったはず。

 昼前にダンジョンの前で別れ、帰路につく。

 家までの道の途中でコンビニに寄り、焼きそばパンと缶コーヒーを買った。




「で、これで準備は万端だから」


 当初の予定としては、夕方くらいまでダンジョンで働いていたはずだった。なのに早くに帰ったのには訳がある。

 焼きそばパンをかじりながら、俺はパソコンを開いた。


「えーっと、ダンジョン配信者で、登録者数50万人以上。これで検索したら……26人くらいはいるんだな」


 多いのか少ないのかは分からないけど、これからもっと流行るという気配を感じる。

 とりあえず一番上から再生してみることにした。どうやら現在配信中らしい。

 

「ダンジョン配信って、ほんとにダンジョンの中から配信してるんだな。どういう原理かは分からないけど、確かにダンジョン内ってスマホ使えるもんななぁ」


 配信では、男がモンスターと闘っていた。たぶんカメラの担当は別で、それこそディレクターみたいな存在がいるのだと思われる。

 壁などの様子から、いつも俺が働いているダンジョンとは違うみたいだ。流れるコメント欄に追いつけないが、だいたいはモンスターと闘っているさまにハラハラしているみたいだった。


『神野さん、お疲れ様です』

『ありがとうございます。お疲れ様です。いやぁ、今回はなかなか手こずりましたねぇ』

『オーガでしたもんね。しかもここは第32層だし。でもすごいですよ。オーガ相手に15分で勝てたんだから』

『ドロップアイテムがたくさん取れましたから、それが良かったですね。皆さんも見守っていただきありがとうございました。次は第33層に向かおうと思います。引き続きよろしくお願いします』

『よろしくお願いします』


 どうやらオーガに挑戦していたところだったらしい。

 となれば、この探索者は現在レベル47といったところだろう。レベルというのは探索者が見ることのできるステータスに記載されている数字で、その人の強さを客観的に表すものだ。47は高ランク冒険者に入るから、今のところではだんとつで高い部類になる。

 神野と呼ばれた男が歩き出したのを確認して、コメント欄にもう一度挑戦してみる。


 "おつ!"

 "ソロでオーガ倒すのはすごい"

 "こんにちはー。って、オーガ倒したの!?"

 "すごすぎて草"

 "さすがかみのん"


 どうやら視聴者たちの間で神野はかみのんと呼ばれているらしい。

 そのかみのんを讃えるコメントばかりだ。


「この人の配信では、強さでモンスターを倒すのを売りにしてるのか」


 なるほどな。強いやつが次々とモンスターを倒していくのは、確かに見ていて爽快感があるし楽しい。


「ついでにイケメンで物腰も柔らかいときたら、有名にならないわけがないよな」

 

 一旦配信を閉じて、他の人のものも見てみる。

 ざっと20人分ほど見て、だんだん共通点が見えてきた。


「みんな……強いな」


 だいたいがレベル15以上はありそうだ。ほとんどがあってもレベル5くらいだから、その強さがうかがえる。


「でもさすがに最初から強かったわけじゃないだろうし……初配信見てみるか」


 俺は神野の配信をさかのぼり、一番初めの動画を押した。彼は初めましてという報告動画を上げていて、部屋の中で撮影しているようだ。

 これから探索者になること、そして配信の方向性や目標などが語られてその動画は終わっていた。他はダンジョンでの配信ばかりだ。


「ふむ。初めのダンジョン動画はほんとにスライム倒すところから始まってるな。これが9年前だから、成長速度もかなり速い」


 結論付けた俺は他の人の初配信も見てみる。

 すると、たいていの人が初めましての動画を上げていて、他はダンジョンでの配信ばかりだった。神野と同じ構成らしい。

 ディレクターやカメラマンがついているかどうかは、その人によるって感じか。

 でも、1人だけで配信していても見やすいようにちゃんと工夫されていた。


「で、問題のゆあのチャンネルはどうなんだ?」


 俺はゆあに送ってもらったURLを検索する。

 そして、まだ2本しかない動画のうち1つをクリックした。一番初めの動画だ。


 見てみると、挨拶もなく、突然スライムを倒すところから始まっている。しかも自分で撮影しているからか、揺れがひどい。見ていて酔いそうだ。そもそも自分の姿も映していないから、容姿も映っていなかった。

 まぁ、未成年だからあまり顔出しはしない方がいいと思うけどな。

 コメント欄も揺れのことを指摘した1件だけだった。ゆあが気づかないうちに、ブラウザバックしてしまったようだ。


「これはひどい」


 思わず俺は顔を顰める。

 俺は何本も動画を見まくっているうちに、だんだん評論家のような気持ちでそれを見ていた。というかなんでこんな動画に登録者がいるんだよ。


「よし。まずはSNSを始めるところからかな。それから初配信の動画を撮って、それを俺が編集して、ゆあに見てもらって、ちょっと登録者が増えたところでダンジョンでの配信を撮ると。ゆあが嫌じゃなかったらもっと女子高生ってところを前面に押し出した方がいいだろうし、女子力も高そうだから、メイクとかの動画も撮ったりして、アイドル的人気を目指した方がいいかもしれない。そしたら女性の視聴者も獲得できるだろうし」


 俺はがぜん燃えていた。

 凝り性なので、こういう作業はかなり好きなのだ。


「とりあえずひとまずの目標はチャンネル登録者数1万人だな」


 部屋の中で俺は一人ガッツポーズをした。目の前の窓に変なポーズをした自分が移っていて、なんだか悲しくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る