第5話 美少女のほぼ初めての探索
周りを警戒しつつ、ゆあと一緒に第1層まで戻る。
「1週間潜ってたけど、感覚は初探索に近いわね」
「飛ばしすぎだ……まずはスライムをどういう感じで倒してるのか見せてくれ」
「スライム? それは簡単だわ。ほら」
ゆあが剣を一振りする。
ぷよぷよとした半透明の餅のようなスライムは簡単に潰され、霧のようになって消えていった。
「あぁ、確かに簡単だな。でもそれじゃ意味がない」
「どういうこと?」
ゆあは心底意味不明だという顔をする。確かに、せっかくモンスターを倒したのに文句をつけられれば不快な気持ちにもなるだろう。
俺はスライムが落とした魔石を拾い上げた。この魔石は、色々なものに使うことができる。例えば電気を起こしたり、はたまた探索者の装備の材料になったり。
そこそこ高値で取引されている。
そして倒したモンスターが魔石や、ダンジョン内で使える道具などを落とす現象はドロップと呼ばれていた。
「実はドロップしやすいモンスターは決まっているんだ」
「???」
あっ、ゆあの顔にはてなが浮かんでる。
「例えばこのスライム。整備士業の傍ら探索者が倒すのは見てきたけど、案外ドロップ率は高い。だけどそれにはひとつ引っかけがある」
「引っかけ?」
「そう。例えばあそこにいるやつで試してみよう。ゆあ、弱い力で30秒以上スライムを攻撃してみて」
「わ、わかった」
ゆあは俺が言った通りにした。
すると、スライムが消えた後に残されたのは、さっきの2倍ほどの量の魔石。
「う、嘘!? 本当に増えた……」
「やっぱり」
自分としても、仮説が本当だったと分かって嬉しい。
やっぱり整備士というのは探索者よりも客観的に状態が見えるし、それに研究要素も強かったから、こういう発見も多かった。
単に自分が規則性とか見つけるのが好きだっただけでもあるんだけど。
「あー、あと、1つ言いたいことがあるんだが……」
「何?」
「ゆあはもっと筋肉をつけた方がいい。今度筋トレのメニューを渡すから、それをやってみてくれ」
「えっ、でもステータスが上がれば自然と体の能力は上がるんじゃ……あと魔力で補えるって聞いたわ」
「それは探索者として長くなってきてからな。何があってもいいように、初心者のうちはちゃんと体力をつけていた方がいい」
「そうだったのね……」
ゆあが頷く。
「じゃあ、次に行こうか。……ってそういえば、配信は?」
「まずは貴方がどういう感じなのか確かめたいじゃない? だから今日はちょっと」
「あー、それはそうだな。明日までに配信について調べてくるよ」
「ありがとう」
俺たちはスライムを倒しつつ、新たなモンスターのところへ行った。第1層にいるのは、このコウモリ型のモンスターとスライムと、犬型のモンスターだけだ。
ダンジョンの中は、思ったより快適で、たぶん人智を超えた力が働いてるんだと思う。
薄暗いけど、嫌な暗さじゃない。狭いけど、怖いほどじゃない。ただまぁ、整備されるまで足場は絶望的に悪かったんだけどな。
「あれがコウモリ型のモンスター……」
「もしかしてまだ闘ったことなかった?」
「だってそもそも見かけなかったんだもの」
「あー、こいつら出てくる時間限られてるからな」
「えっ、そうなの?」
「あぁ。主に早朝から昼前までにかけて。それ以降は出てこない。昼ご飯食べたらもう無理だな」
「知らなかった……というか、なんでそんなこと知ってるの!?」
「ずっと見てきたからなぁ。そしたら気づいたんだよ。こいつらいつもはいないなぁとか、だいたい時間決まってんだなとか」
「どうしてその情報が出回ってないのよ」
「さぁ。まだ研究も進んでないし、そんな細かなことより前に、もっとやらなきゃいけないことがあるからじゃないか?」
「貴方はどうしてそれを黙ってたの?」
「俺はいつも自分を馬鹿にしてくるやつに必要以上に優しくするほどお人好しじゃないよ」
ゆあは黙ってしまった。言い方がきつかったかもしれない。
「なんで……」
「ん?」
「なんで私には教えてくれるの? 最初に貴方のこと変態呼ばわりしたし、ひどい態度もとったじゃない。それに……私、性格悪いってよく言われるし」
「確かにゆあはかなりワガママだとは思うけど」
「思ってるの!?」
「性格悪いわけじゃないし、人のことを馬鹿にするようなタイプでもない。それに素直に頑張ろうとしてるから、教えたくもなる」
そう言うと、ゆあは俯いた。癖なのだろうか、髪をいじっている。
「そ、そう。ならいいわ。このままダンジョンを探索しましょう」
「そうだな。コウモリ型のモンスターは、すばしっこくて、攻撃が当たりにくい。あと目が悪くて、土を踏む音とかで聞き分けてる。声は関係ないな。だからこうやって」
俺はその辺に落ちていた石を近くに放った。コウモリ型のモンスターが、すごい勢いで飛んでくる。
「ゆあ、今剣を振るんだ! そしたら簡単に捕まえられる」
「分かった!」
ゆあが剣を振るう。それはコウモリ型のモンスターに命中し、すぐに消えていった。
「びっくりするほど簡単だったわ」
「そうだろ?」
口では俺の手柄のように言いつつも、俺は少し考えていた。
……たぶんこの子はかなり筋がいい。さっきの攻撃だって、あと2、3回は振らないと当たらないと思ってた。
きっとそれは天性の勘、そして――
『私、人より魔力量がかなり多いの』
もし広場の前で話していたあの話が本当なら、彼女は、すごい探索者になるかもしれない。
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