第4話 美少女に養われるおじさん
「ディレクター……?」
「そう。ディレクター」
「その、君はアイドルか何かなの?」
ディレクターと言われて思いつくのは、それだけだ。まさか目の前の少女――姫野 ゆあは有名人だったのか。聞いたことはなかったけど……かなりの美少女だし納得はいく。
それならさっきの助け方はまずかったかもしれないと冷や汗をかき始める。いや、あの場、他に助ける方法が思い浮かばないんだけど。
「これからって感じかしらね」
「じゃあ、練習生とか?」
「別にそういうわけじゃない。ダンジョン配信者よ」
「ダンジョン配信者……?」
そういえば、整備士仲間がこそこそ噂話をしていた。いわく、最近流行りの職業だと。
ダンジョンに潜り、モンスターを狩るのを、撮影して配信する。スリルと人によってはモンスターをばんばんなぎ倒していく爽快感に、人気を集めているようだ。
やっぱりみんな、ゲーム感覚なんだろう。
「そうね。私はそのダンジョン配信者。とはいっても始めたばかりなんだけど。数字に伸び悩んでいるし、少し強いモンスターを倒そうとしたらあんなことになってしまって……軽率だったことは認めるわ」
「なるほど……」
それでこんな階層にいたのか。
だんだん謎が解けてきた。焦っていたんだろう。
だからといって、強い階層にいたのはあまりに危険すぎるから整備士としては許せることじゃないけど。
「貴方、かなりここに詳しいのよね。それからそのバッジ。フリーの整備士のものってことは知ってるわ。フリーの整備士の人は、探索者とタッグを組んで探索してもいいことも」
それは昨日の受付の人にも言われた。
とはいえ、整備士は探索者に馬鹿にされているから、タッグなんて組む人はほぼないそうだ。
「つまりタッグを組んで、配信を手伝ってほしいってことか」
「簡単に言えばそうなるわね」
うーむ。でもこの場合。
「気をつけろ女子高生。俺が言うのもなんだが、俺はおじさんだ。おじさんと女子高生のタッグってのは少々危険というか、なんというか」
「でも貴方は何もしないでしょ?」
「しないけど、姫野さんは軽率すぎるって話だよ」
そう言うと、姫野は不満そうな顔をする。
「それは分かってるわよ。だけど、他に頼める人はいないし、そもそも女性の探索者でさえほとんどいないのに、フリーの整備士なんてもっといない。お願い、本当に貴方だけが頼りなの。それに……」
姫野はカバンからごそごそと何かを出した。
えーっとこれは……
「お母さんからもらったダイヤモンドの指輪よ」
「えっ、本物!?」
思わず変な声が出る。
あまりに大きいから、おもちゃかと思った。
自然に、他の探索者か指輪を見えないように、体を動かす。
「まぁ、贈り物の指輪でこれぐらいは買えるくらいの財力はあるってことね。それから私の家、姫野グループだから」
「姫野、グループ……」
姫野グループとは、ダンジョン企業でかなり幅を利かせているグループだ。探索者の装備やダンジョンの研究も、主に姫野グループが行っている。そういえばアイツも、姫野グループの研究員だったような……
「つまり、貴方のクビくらいまた簡単に切れるし、貴方をこっちで養うだけの財力はある。美味しい話だと思わない? 給料だって桁違いなのは保証するわ」
親の金で何を偉そうに、とは思ったが、確かに美味しい話だ。
ディレクターをやる代わりに、美少女と探索して、桁違いの給料をもらう?
あまりにもできすぎた話じゃないか。
思わず疑いにかかりそうになるが、この様子を見ると、姫野が姫野グループの一員だというのは本当だろう。なんとなくお嬢様オーラが漂ってるし、かなり世間知らずだし。
「……分かった。ディレクターになるよ」
「話が早いわね。じゃあお給料とか、ダンジョンに潜る時間とか、契約とか、その他もろもろはあとで地上で決めましょう。さぁ、第1層に戻るわよ!」
姫野は行きの俺のように、意気揚々としている。
俺もまぁ、給料が上がるということで、楽しい気分になっていた。女子高生に養われる30代独身の図はどうかとは思うけど。
「そういえば、姫野……さん」
呼び方はとりあえず今はさん付けしておこう。
「ゆあでいいわよ? どうしたの?」
「そのダンジョン配信っていうのは、今どれくらいの人が見てるの?」
「そうね。そろそろ始めようと思ってたんだけど、とりあえずこんな感じかしら」
見せられた画面は、おそらくゆあのチャンネルだった。
アカウントのところは可愛らしいイラスト。ヘッダーはゆあの自撮りになっている。
でも俺が1番初めに目についたのはそこではなかった。
「チャンネル登録者数、2人……」
これ配信に詳しくない俺でも、かなり低いって分かるぞ……
「まぁ、駆け出しだし? でもそれにしても、思ったより伸びないのよね。今ダンジョン配信って人気だから、すぐに1000人は超えると思ってたのに。友達のお兄さんは3日でそれくらい超えてたし」
「マジで」
「うん。どうしてかしら。この1週間、時間あるときはできるだけ配信するようにしてるのに」
「俺はこういう配信系に関しては詳しくないからなぁ」
彼女のディレクターとなった以上、原因は知りたい。あと、普通にこんな美少女が顔出ししてるのにこんなに見られてないのかも気になるし。
俺は家に帰ったら、ゆあの配信を見て、それから他の配信も見まくって研究しようと心に決めた。もともとこうやって考えるのは性に合ってる。整備士の仕事にも研究って意味では近いところはあるしな。
「でもディレクターができたし、もっと伸びるとは思うの。とりあえず第1層に行きましょう!」
ゆあはそれでも嬉しそうだ。
そんな彼女の様子を見て俺は頷いた。
「そうだな。まずはどんな感じでモンスターを倒すのか、見せてくれ」
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