第3話

 春の公演は大盛況のうちに終わった。鳴りやまぬ拍手を背に神音は柔らかに微笑みアンコールに他の演奏家を使わず、決まってひとりでグリーンスリーブスを吹いていた。


「お兄ちゃま、今日も大成功おめでとう。」

花を両手に抱えて麗歌がやってきた。

「有難う。」

「テクニックは凄いのにシンプルな選曲が素晴らしいのよ。シャミナードの管楽器とフルートのコンチェルトをあんなに感動的に吹くなんて!それにアンコールのグリーンスリーブスのソロ、本当に感動するの。イギリスの森の奥深くでたった一人ひっそり吹いてるって感じがして。わが兄ながら天才としか言いようがないわ」

 麗歌は神音を車にの乗せて、東京駅に向かいながら言った。

「たまには泊まってゆっくりして行けばいいのに。いつも真っすぐ帰っちゃうんだから。一緒にお食事して行きましょうよ。待っている人がいるわけじゃなし」

「・・」

「あら、まさか誰かいるの?・・・まさかよね」

暫くして麗歌は話を続けた。

「そうそう。私の小学校の時の同級生の今野君て覚えてる?」

ハンドルを回しながら、麗歌が言った。

「なんとなく」

「この間、クラス会があったのよ。今野君でとっても優秀な子でね。今は銀行に勤めてるらしいんだけどね。急に奥さんが行方不明になっちゃったそうなのよ。お昼に買い物に出かけて白いブラウス着たまま居なくなって、警察にも届けたけど見つからないんですって。何か事件に巻き込まれたんじゃないかって、すごく心配していて。あるのね、そんなこと。」

八重洲口に着くと、神音を降ろして麗歌は車を走らせた。

「じゃあね!またね。」








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