第38話 これからのこと

 

 文化祭が終わると、すぐに秋休暇が訪れる。

 私は、いつも通り自宅の屋敷に帰って来ていた。

 

 夏休暇と違って皆それぞれ予定があるらしく会うことが難しかった。

 カイちゃんとキャロルは、カイちゃんの別荘へと行くらしく嬉しそうに報告された。

 二人は、そこでも何か進展があるかもしれないなぁ。休暇が開けたら聞いてみよう。


 シャーレ嬢は、おばあ様の元で過ごされるらしい。おばあ様は上品かつ博識な方でシャーレ嬢の憧れらしい。さすがは、シャーレ嬢のおばあ様だ。私も機会があれば一度お会いしてみたいな。


 ジェラルドさんは、弟さん(弟さんは、アインベルツ家の子だと教えてくださった)と共に騎士団に所属されている叔父様のところで特訓をなさるらしい。

 お休み中も鍛練だなんて大変過ぎる……。休暇が開けたら何かお好きな物を差し入れさせて貰おうかと考える。


 そんな感じで皆さん予定がギチギチらしい。

 ゲームでも秋休暇の間キャロルは魔法の特訓をメインにしてたことを思い出す。


 私は、ふと息を吐くと窓の外を眺める。

 整えられた庭で秋の花々が心地良さそうに揺れている。愛らしい花を見ながら紅茶を一口飲むと今後のことを考える。

 

 文化祭が終わったので、次の大きなイベントはニューイヤーイベントのはずだ。

 ニューイヤーイベントは冬休暇中に行われるイベントで好感度の一番高いキャラからお誘いを受けて一緒に参加するものである。


 今のところキャロルと一番好感度の高い攻略キャラは、どなたなのだろう?

 ふとキャロまほでの各ルートを思い返しているとジェラルドさんとキャロルの仲睦まじいスチルが脳裏に浮かぶ。

 

 ――ざわ。


 あーー……ダメだ。胸がざわざわする。

 ……どうしてこうなった。

 思えばネイサン達と和解した後の馬車の中からいつものジェラルドさんとは少し違っていたような気がする。

 そして、魔法祭で演舞が終わった後に制服を取りに行ってくれて帰って来た時。

 動揺していた私に気遣ってか僅かに距離を取ってくれていた。その後も相変わらず優しくて友好的だが、これまでよりもほんの少しだけ距離を置いてくれている。


 私は、それを何となく寂しいと感じていた。

 これって、もしかしなくてもジェラルドさんに惹かれてるってことだよね……?


 いや、落ち着け。それよりも今はこの先のことを考えよう! 自分の生存を優先だ!

 

 えっと、なんだっけ。

 ああ、そうだ。そもそも、キャロルはルートに進むための大きなイベントは主にカイちゃんと過ごしているはずだ。

 秋休暇でも一緒に別荘に行くって、もうそれはそういうことだよね? おお。なんだかドキドキしちゃうな。

 文化祭でのキャロルの反応を見ていても、恐らく二人が結ばれるのは時間の問題だと思われる。


 そうなると、キャロルは聖女ルートに進むのだろうか? いや。そこは、カイちゃんとの幸せルートでいいのかな?


 これまでの流れを考えると本来のゲームの流れとかなり異なっているはずだ。

 私自身もさまざまなイベントに関わったり参加させてもらった。

 キャロルやカイちゃんやシャーレ嬢……それに、攻略キャラの皆さんとも仲良くなれた。いや、アルベルト様とは今でもめちゃくちゃ距離があるけども……。


 もしかしたら、このまま何事もなく過ごして行くことが出来るのではないだろうか。

 この流れなら断罪イベントを回避できるのではないだろか。

 

 そもそも前世のことを思い出してキャロルと関わっているうちに、彼女に対して怨み妬みの感情で魔法で攻撃するなんてことは有り得ないことだとずっと思っていたし、もし仮に何らかの事故が起きてしまってキャロルに対して魔法を使ってしまったとしても故意にキャロルを攻撃するなんてことは無いと信じてもらえるのではないだろうか……そんなことを考えてしまう。


 少なくとも、ゲームの中の私と違って今の私はキャロルに対して怨みも妬みもしていない。


 楽観的かもしれないが、何となく上手く行くのではないかという感情が強い。

 それは、今が私にとって楽しくて充実した毎日だからかもしれない。


 自分を変えようと私なりに努力して、皆さんとも仲良くなれて、サイラス様とのお話しで将来のこともほんの少しだけど考えるようになって……。


 以前の自分よりも、ずっと好きになれた。

 今ならもし断罪されたとしても多少なりとも納得して死ねると思う。

 けれど、今度は未練が出来てしまった。もっと生きたい。これからも皆とたくさんの楽しい時間を過ごしたい。魔法も極めて行きたい。

 ジェラルドさんとも……そこまで考えたところで部屋の扉がノックされる。


「失礼します」

「師匠!」

「お嬢様。今日は爪の美しい整え方が知りたいとのことでしたよね?」

「はい! 今日もよろしくお願いします!」


 ごちゃごちゃ考え過ぎていたところに師匠が来てくれて、ほっと息を吐く。


 まだまだ自分磨きもやって行きたい。


 大丈夫。信じよう、可能性を。

 そんなことを考えながら爪をピカピカに磨いてゆくのであった。


 秋休暇は主に自分磨きに精を出すことに集中した。




 ◇◇◇




 秋休暇が終わり久し振りに皆と会えて休暇中の話に花を咲かせていたが担任の先生が現れて中断される。


 各々が席に着き先生の話を聞いていた時。

 私にとって驚くべき言葉が発せられた。


「皆さん。秋休暇はどうでしたか? すぐに冬休暇が訪れますが体調に気を付けて勉学に励んでくださいね。冬休暇の前に他校との交流会がありますが……」


 ……………………は?


 他校との交流会?

 他校との交流会は二年生になって暫く経ってからのはずだ。そして、その前に断罪イベントがある。


 え。待って……どういうこと?

 何で、こんな時期に交流会があるの……何もかもがチグハグだ。

 それでも、一つだけ核心めいたものがある。

 これは、つまり……



「私は断罪イベントを回避できたってこと!?」



 私は思わず興奮ぎみに声を上げて立ち上がってしまった。



 

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第一章の完結です。

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憧れの乙女ゲーに転生したのに悪役モブ令嬢!? ~ギロチン確定で攻略キャラたちからの好感度最悪ですが抗い続けたら楽しい学園生活が待っていました~ スズイチ @10ga1summer

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