第36話 文化祭2日目『魔法祭』・4

 

 二年生の魔法祭でのテーマは『炎と水の演舞』。


 私は炎魔法を担当していた先輩の代役となる。

 水魔法を担当する先輩とサポートをしてくださる先輩……二人を見ると不安そうな面持ちを隠しきれない様子であった。


 当然だよね。代役が見つかって舞台には上がれるが、軽い打ち合わせくらいしか出来なかったし……。

 せめて、一度くらいはリハーサルをしておきたかったが、結局はそのような時間も取ることが出来ないまま、ぶっつけ本番となる。


「……マルベレットさん。今日は本当にごめんなさいね……」

「い、いえ」

「……大丈夫かしら……私たち……上手く出来るかしら……たくさんの方々が見に来てくださっているのに……しっ、失敗なんてしたら……」


 先輩は強張った表情で顔を青くさせながら言う。そんな先輩に対し、私は安心させるように頬笑みかける。

 

「……先輩。私はともかく、先輩方はこの日のために懸命に練習をされてきたんですよね? そのことを忘れないでください。きっと大丈夫ですから」 

「……マルベレットさん」

「私も全身全霊で頑張りますので! こう見えても魔法のコントロールは得意なんです」

「……ありがとう。マルベレットさん」

「――二人とも。一年がけてくるぞ」


 サポート役の先輩の言葉に、はっと顔を上げる。次はいよいよ自分達の出番だ。


 舞台の方を見ると頬を薔薇色に染めた笑顔のキャロルとシャーレ嬢が目に入る。


「(ああ。良かった……成功したんだ……)」


 私は、ほっと息を吐く。

 本当は客席から舞台に立つ二人の勇姿を見届けたかったけれど仕方ない。

 カイちゃんが写真か動画を残してくれいることを願おう。


 客席から盛大な拍手と歓声が聞こえてくると、舞台に居た一年生が舞台裏へと戻って来た。


「おめでとう! 大成功だね!」

「コレルちゃん! ありがとう!」

「さぁ。お次は皆様の番ですわよ。――いってらっしゃい」


 シャーレ嬢が優しく背中を押してくれる。その優しさと温かさに少し泣きそうになってしまうが、ぐっと堪える。


 

「いってきます!」


 

 舞台に立つと、すっと息を吸って会場内を見渡す。二階席を合わせると五千人以上の人達が入ることの出来るこの場所が、今は満員で立ち見の人達もちらほらと居るような状況だ。


 震えそうになる足を叱咤し、にこやかに手を振ると定位置につく。


「「魔導書ブック!」」


 魔導書を呼び出すと、まずは水魔法から始まる。

 呪文を唱えると、水魔法でぐるりと会場を囲み四方から滝のように大量の水が落ちてくる。それに対してサポート役の先輩が結界を張り観客に水がかからないようにする。

 そこに、私が会場の至る場所に炎魔法で灯をともし、幻想的な空間を作るのだ。


 二年生の魔法演目は演技や舞よりも魔法のコントロールによる美しさがメインである。


 ――大丈夫。


 落ち着いてやれば、大丈夫だと言い聞かせる。今のところ何の問題もなくこなせている。


 天井に向かって炎魔法を飛ばし花火のような演出をする。それを水魔法で消すと次は水魔法と炎魔法で様々な生き物を作り出し観客を楽しませる。


 集中力を切らさずに、何とかここまで来た。次はいよいよ最後の大技の魔法だ。

 私が炎魔法で幾十の大きな円を作ると先輩の作った水魔法が円の中をくぐり抜け、最後に会場全体を水で覆うとサポート役の先輩が光魔法をあてて虹を作り出す。


 虹がきらめいた途端、会場の内から歓声が上がる。


「(……良かった)」


 無事に成功だと思い、ほっと胸を撫で下ろした時。会場内を覆っていた水魔法が崩れる。


「……なっ!?」


 先輩を見ると手が震えていた。緊張が限界に達してしまったのだろう。


 ――このままでは、会場が水没してしまう。


 私は咄嗟に口を開いた。





 

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