第35話 文化祭2日目『魔法祭』・3


 控室に連れて行かれると、そこでヘアメイクをして貰ったあと、先輩の着ていた式典服へと着替える。

 

 ……だが、先輩は私よりもずっと小柄だった。

 た、丈が短い。フィッシュテールスカート……前が短く後ろが長いタイプの衣装なので後ろは問題ないが前が膝よりもかなり上である。


「こ、これは……どうなのでしょうか……」

「ご、ごめんなさい……私の式典服じゃ合いませんでしたよね……」


 シャーレ嬢が顎に手をかけ私の足をまじまじと見つめてくる。うぅ……恥ずかしい。


「長くて真っ直ぐな綺麗な脚をしていらっしゃるのですし、いっそそのままでもよろしいのでは?」

「は!? いやいやいやいやいや! さすがに、これは恥ずかしいです!」

「……仕方ありませんわね」


 シャーレ嬢は窓に向かうと、かけてあったレースのカーテンを取り外し魔法で裁縫道具を取り出すと私の着ている式典服に縫い合わせていく。


「さ。これで、幾分かはマシになったでしょう」


 鏡越しに見てみるとスカートに先程のレースが付けられていて、足はうっすらと透けて見えてはいるが最初の状態よりもかなり隠せている。何よりもレースのお陰で式典服が更に可愛くなっていた。


「す、凄いです! 可愛い!」

「でしょう?」


 腰に手を当てて、ふふんとシャーレ嬢が笑う。こちらも最高に可愛い。


「靴は、こちらをお履きになってくださいな。わたくしの私物ですので、少しサイズが小さいかもしれませんがストラップである程度の調節が可能ですわ」


 美しいパールのあしらわれた繊細な靴を履いてみると、多少窮屈ではあるが調節できるお陰で魔法祭の間くらいなら問題なく履いていられそうだ。


「完成ですわね。とても良くお似合いですわ、コレルさん。――さ、急いで皆の所へ戻って打ち合わせしませんと!」

「は、はい!」


 舞台裏へと戻ると皆がわっと声を上げる。


「コレルちゃん素敵! 式典服すっごく似合ってる!」

「ああ。お前さんに、よく似合ってるぜ」

「ほ、本当? 嬉しいな。えへへ!」


 このような真っ白で清廉な衣装を身に纏うのは初めてなので照れてしまう。

 肩やデコルテや足……いろんな所が露出していて少し恥ずかしかったけど褒めてもらえて少し安堵した。

 

「さあ皆さま方。それよりも、各自やるべきことをなさいませんと時間がございませんわ!」


 シャーレ嬢の言葉に皆が頷くと各々動き始める。私も二年生の皆さんと打ち合わせをするべく動こうとした時。

 私の右手に誰かの手が重なり驚いて振り向くとジェラルドさんがいらっしゃった。


「ジェラ、ルド……さん?」

「……とても似合っている」

「……え?」

「その衣装。まるで女神のようだと見惚れてしまった」

 

 …………………………え?

 い、今の言葉は私に向けられたものなの!? げ、幻聴じゃなくて!?


「突然すまなかった。どうしても伝えておきたくてな。……演舞の成功を祈っている」


 そう言って私の指先に触れるか触れないかの口付けを落とされると去って行ってしまわれた。


 …………………………は?

 えっ、ちょっ、まっ、待って? どこの王子様ですか!? 私のこと殺す気なのかな? 心臓がバックンバックンなのですが? 超絶美形攻略キャラの破壊力ヤバすぎませんかね!?

 友達とはいえ、ただのモブがこんな凄まじい破壊力のある応援の言葉を貰っちゃっていいのでしょうか!?

 

 私は、腰が砕けそうになるのを何とかギリギリで耐えると、気合を入れなおし急いで二年生の皆さん方への元へと向かった。


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る