第34話 文化祭2日目『魔法祭』・2

 

 私は、シャーレ嬢の言葉に驚きながら頷く。


「は、はい。炎魔法なら使えますけれど……」

「でしたら、彼女の代わりに貴女が魔法を披露なさってくださいな!」

「…………………………は?」

「時間がありませんわ。急いで式典服に着替えてから軽くでもいいので合わせて……」

「ま、まっ、待ってください!! なぜ私が!?」


 何で急にそんな話になっているの!?


「他に適任がおりませんもの。三年生には炎魔法が使える女子生徒はおりませんし、二年生にも代役を務められるような方はおりません。貴女しかいないのです!」

「いやいやいやいやいや!  ま、待ってください! 確かに炎魔法は使えますが代役なんて無理です!!」

「ですが、このままでは二年生の方々が魔法を披露出来ませんわ! 今更、演目の変更なんて出来ませんし、会場には既にたくさんの来賓や王族の方々もいらしてますのよ!」

「で、ですがっ……!」


 こ、困った……。どうすればいいのだろうと考えていた時。

 

「コレルちゃん、やろう!」

「はえ?」


 シャーレ嬢の隣にいたキャロルが私の手を取り目をキラキラさせながら言う。


「コレルちゃんの魔法凄いもん! 絶対に大丈夫だよ!!」

「キャ、キャロルさん……?」

「ああ。俺も、お前さんなら大丈夫だと思うぜ」

「カ、カイちゃんまで……」


 どうしていいか分からず視線を彷徨わせていると、ジェラルドさんと視線がかち合う。

 ジェラルドさんは私を安心させるように穏やかな笑みを向けてくださると、側まで来て頭を柔く撫でてくれる。

 

「私もコレルなら出来ると思う。君の魔法は君が思っている以上に素晴らしいものだ。――だが、無理はしないで欲しい。君が決めていいんだ、コレル」

「…………ジェラルドさん」


 ――困惑したまま考える。

 確かに、このままでは二年生の人達は魔法を披露できないだろう。折角の魔法祭なのに、とても残念である。それは、見に来てくださっている方々もだろう。

 それに、この日のためにと練習をしてきたことを思うと、ここで辞退なんていうのはさすがに気の毒すぎる……。

 

 でも……でもなぁ……いきなり舞台に立って魔法を披露しろなんて言われても……。

 

 視線を上げて周りを見てみると、皆が私を見ていた。期待と不安と申し訳なさと懇願と……様々な表情をしていた。


 ああ……そうか。こんな私でも役に立てるかもしれないんだ。

 上手く出来るかなんてわからないし、成功するとは限らない。なんせ、付け焼刃だ。

 それでも、私にやって欲しいと思ってくれているんだ。

 私は、そっと息を吐くと口角を上げる。


「――わかりました。私でよければ代役を務めさせていただきます」

「「コレルさん(ちゃん)!」」


 ジェラルド様が気遣わしげに私を見ながら口を開く。

 

「……いいのか?」

「はい。私なりにやってみようと思います」

「……そうか。君がそう決めたのならそれでいい。君の魔法を楽しみにしている」

「ありがとうございます。ジェラルドさん」


 優しい言葉をかけてくれるジェラルドさんにお礼を言うと、二年生の先輩方が頭を下げてくださり慌ててしまう。


「ありがとう、マルベレットさん!」

「助かるよ……! ありがとう!」

「い、いえ。そんな!」

「さ。それよりも先ずは式典服に着替えますわよ! コレルさんと先輩は、こちらにいらしてくださいな!」


 

 私と火傷を負っていた先輩は、急ぎ足でシャーレ嬢に舞台裏の控室へと連れ行かれるのであった。

 



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