第33話 文化祭2日目『魔法祭』・1

 

 ――文化祭二日目。


 今日の目玉ともいえる催し『魔法祭』。

 簡単にいうと魔法に対する感謝祭である。

 魔法持ちの生徒らが魔法に感謝の意を表し、各学年ごとにテーマを決めて大勢の人達の前で魔法を披露するのだ。

 基本的に各学年から男女合わせて三名ずつが選ばれるのだが、一年生からはキャロルとシャーレ嬢が選出されていた。


 私はカイちゃんと一緒に二人の応援に来ていて、舞台裏でキャロルとシャーレ嬢のあまりの美しさに感嘆の息を漏らす。


「わあぁ! 綺麗ーー!! 美しいーー!! 美の化身かな? 私が宮廷画家なら二人の美しさを永遠に絵の中に閉じ込めておくのに……」

「ははっ! でも、ほんと二人とも女神のような美しさだな」

「もう、褒めすぎですわ」

「えへへ! このお洋服とっても綺麗だよね!」

  

 二人が着ている魔法祭用の式典服は、白で統一された柔らかな素材の生地に様々な装飾が施されている非常に美しい召し物だ。

 彼女達にとても似合っていて、カイちゃんも言っていたが、さながら女神のようである。


 ちなみに、今回の魔法祭にはアルベルト様もジェラルドさんもカイちゃんも参加していない。

 アルベルト様とジェラルドさんは高等部になってから初めての文化祭兼魔法祭ということで、どちらかが疎かになってはいけないと辞退なされたのだった。

 

 実際、生徒会のお仕事を手伝ってみてあの忙しさの中で魔法祭のことまで気に掛けられないだろうなぁ……と、思わずにはいられなかった。

 カイちゃんは単純に今回披露するテーマと自身の得意とする魔法が噛み合っていなかったので選出されなかったのだ。

 

 今回の一年生による魔法演舞のテーマは『キラキラふわふわみんな元気になーれ』である。キャロルの名付けたものだ。結界(防御魔法)と治癒魔法をメインにしたものとなる。


「あ、そろそろ一年のリハーサルの時間だよね? 客席から二人のこと応援してるから!」

「ありがとう、コレルちゃん!」

「ふふっ、心強いですわ」

 

 じゃあ、もう行くねとカイちゃんと立ち去ろうとした時。


「きゃあああああああ!!!!」

「!?」


 突然の叫び声にびくりと肩を揺らしてしまう。

声の主が舞台裏まで走って来ると、その場でしゃがみ込んでしまった。

 どうやら、リハーサル中の二年の女子生徒のようだが……。


「ふえぇ……もう無理……無理ですぅ……やだぁ……ひっく……」


 よく見ると女子生徒の腕が痛々しく真っ赤に腫れ上がっていて、慌てて声を掛ける。


「だ、大丈夫ですか!? 一体、なにが!?」

「……っすみません、無理です……すみません……すみません……ひっく……」


 他の二年生の人たちが腕を真っ赤に腫らした女子生徒を追いかけて、こちらに来る。

 

「お騒がせして申し訳ございません。彼女、緊張していたみたいでリハーサル中に詠唱をミスして腕に火傷を……」

「……っ、すみません……すみません……」

「……あの」


 会話の途中でキャロルが手を上げる。


「先に先輩の手当てをしても構いませんか?」

「そ、そうね! お願いしてもいいかしら?」


 キャロルが頷くと魔導書を呼び出し治癒魔法をかける。


「……あ、ありがとう……ございます……」

「いいえ」


 火傷が綺麗に治り、ほっとしたのも束の間。火傷を負っていた先輩が、またぽろぽろと涙を溢し始める。


「……す、すみません、私には無理です……魔法を披露できません……絶対に無理です……ふえぇ……怖いぃ……無理ぃ……」

「今更そんなこと言っても……たくさんの人達が楽しみにして来てくれているのよ? 王族の方々だって、いらしてるんだから!」

「……でもっ、だって……! 怖いんだものっ!」


 先輩は、わあぁと声を上げて泣き始める。


「ど、どうすれば良いの……」

「……もう魔法祭まで時間がないぞ」


 騒ぎを聞き付けて生徒会の人達も駆け付けたようだ。


「何の騒ぎだい?」

「……アルベルト様。実は……」


 話を聞いたアルベルト様が顎に手をやり、ため息を吐く。


「そうか……。それは、困ったね。だからといって嫌がっている人間を無理矢理舞台に上げるわけにもいかないしね……」


 ――沈黙が流れる。

 誰もが、どうしたものかと考えていた時。

 

「コレルさん!」


 シャーレ嬢が声を上げた。


「貴女、炎魔法が使えましたわよね!」

「…………は? え?」


 私は、突然のことに酷く間抜けな声を出してしまった。

 



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