第32話 文化祭・3


 スタッフの方に案内され、中に入るとすぐにキャロルの大きな悲鳴が耳に届く。

 公式でも怖がりだと書かれてあったことを思い出して、つい笑ってしまった。


「何か面白いものでもあったのか?」

「いえ。キャロルさんの悲鳴が聞こえてきたので……。彼女、とても怖がりなんです」

「ああ。なるほどな」

 

 またもや、届いた悲鳴にジェラルドさんが苦笑する。

 でも、きっとあんな大きな声で全力で怖がってくれた方が男性は喜んでくれそうだなぁと考える。

 

「君は、こういったものは平気なのか?」

「そうですね。私は、比較的こういったものは平気な方だと思います」

 

 薄暗い中を見回すと、おどろおどろしい雰囲気が漂っていた。壁や床には血飛沫、天井はクモの巣だらけで、放置されてあるボロボロの甲冑からは目玉や腕が飛び出ていた。

 他のご令嬢方は、きっとこういったものは苦手なんだろうなぁと考えてしまう。


 面白いリアクションが出来ないことに少し申し訳なく思っていた時。

 頬に、ぬめりとしたものが触れる。


「ぎゃああああああ!!!!」

「急にどうした、コレル!?」

「いっ、いま頬にっ! ぬめって!! 何かが!!」

「――仕掛けか何かだろう。大丈夫だ」

「で、ですが、ぬめって……」

「どちらの頬だ?」

「み、右側ですぅ……」


 ジェラルドさんがハンカチを取り出すと私の頬を拭ってくださる。


「ほら、綺麗になったぞ」

「……あ、ありがとうございます……。すみません、取り乱してしまって……。怖いのは割りと平気なのですが……ぬ、ぬめっとしたものは苦手でして……」

「そうか。無理はしなくていい。俺が前を歩こうか?」

「い、いえ! 大丈夫です!」

「ならば、手を繋ぐか? それとも腕を貸そうか? 君が安心出来る方法を選んでくれ」

 

 や、優しいーー!! えっ、ただのお友達にこんなにも優しくしてくださるの!?

 ゲームでのジェラルドさんは攻略後はデレデレのスパダリになるけどヒロインですらない普通のお友達にこれって凄くない!?

 

 いけない。気を付けないと、ジェラルド様のことを好きになってしまうかもしれない。

 けれど、それはあまりに不毛すぎるので気を付けなければ……。

 

 こんな素敵な殿方を好きになってしまっても傷付くだけだ。所詮、私はモブでしかないのだから。

 ハイスペで攻略キャラの彼と、どうこうなんて有り得るわけがないのだ。非モテのモブとして、ちゃんと弁えなければ。


「……コレル?」

「……えっ!? あっ、え、えっと……では、手を繋いでいただいても構いませんか?」

「ああ、もちろん。どうぞ、コレル嬢」


 ジェラルドさんは穏やかに微笑みながら手を差し出してくださる。

 

 今この瞬間くらいは優しくしてくださる美しい殿方に甘えても許されるだろうか。


「……あ、ありがとうございます」


 

 私が、その手を取るとジェラルドさんはゴールまでずっと握っていてくださっていた。

 

 この後も、ジェラルドさんと私は二人で屋台を周ったり展示物を眺めたりと楽しいままに無事に一日目を終えることが出来たのだった。


 

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