第30話 文化祭・1


 ――文化祭一日目。


 正門前には所狭しと各業者の出展した屋台が並んでいた。

 ほとんどか飲食関係ではあったが他にもアクセサリーや本や絵画など様々な品があり生徒や訪れた人々を楽しませていた。

 

 それ以外にも学園内の別棟(べつむね)では、コンサートやプラネタリウム。他にもサーカスやお化け屋敷なども開催されている。


 前世では模擬店などは学校の生徒達が出して盛り上げるものだったが、さすがは王侯貴族の通う学園。それらは、外部の人間のすることで、彼らは庶民の味や品を、この日は特別にめいっぱい楽しむのであった。

 とはいえ、来賓の方々やご家族の方向けにクラスでの展示会などもやっているのだが。


 私は校舎近くの人気のない場所で、のんびりと賑わいを見ていた。

 キャロルやカイちゃんやシャーレ嬢は、文化祭楽しんでるかなあ。


「コレル」


 ぼんやりと、そんなことを考えていると名前を呼ばれたので声のした方へと振り返る。

 そこには、珍しく少し息を切らしたジェラルド様がいらっしゃった。


「すまない。待たせただろうか?」

「いえ、私も今来たところです。ジェラルドさ……ん、は生徒会の方は大丈夫なんですか?」

「今、様って言いかけただろ?」

「うっ……す、すみません……」

「生徒会の方は問題ない。……しかし、君はまだ『さん』にすら慣れないのだな」

「何と言いますか……その、恐れ多くて……」


 ジェラルド様は溜め息を吐くと、顎に手をかけ何やら考えている様を見せる。

 

「ならば、ペナルティを課すのはどうだ?」

「……は?」

「君が俺を様と呼ぶ度に、5分間手を繋ぐというのはどうだろう?」


 ……………………は?


「え!? いやいやいやいや! なんですか、そのペナルティ!?」


 それ、ペナルティじゃなくてご褒美じゃないの!? 超絶美形のハイスペ攻略キャラぞ!? ご自分の認識バグってない!?


「君に早く慣れてもらいたいからな。……ダメだろうか?」


 なんで、ちょっとしょんぼりするんです!? くっ……そんな顔されて断れる女子生徒いる? 私には無理だ……。


「ぐっ……わ、わかりました……」


 そもそも、私がちゃんと『さん』呼びをすればいいだけなのだ。


「そうか!」


 なんで、ちょっと顔を輝かせるんです!? くっ……かわいいな、ジェラルド様……じゃなくてさん!


「では、行こうか。コレル」

「は、はい。ジェラルド様!」


 ……………………あ。


 互いに、バチっと目が合った瞬間ジェラルドさ……ん、が美しい緋色の目を細める。


「君は、本当におもしろいな」

「……うぐっ……」


 ジェラルド様は嵌めていた手袋を脱ぐと私に手を差し出す。


「約束通り、5分間手を繋ごうか」


 差し出された手をゆっくり掴むと柔く握られる。

 こ、これは、なんだろう。めちゃくちゃ恥ずかしい。握手の時とは全然違う……照れが凄い。多分、今全身が真っ赤になっていると思う。


「…………なら……」


 恥ずかしくて俯いていると、言葉が落ちてくる。よく聞き取れなくて顔を上げるとジェラルド様が、とろけるような笑顔でこちらを見ていた。

  

「これなら、ずっと様のままでもいいな」

「…………………………」


 

 

 ――――はっ!!

 

 怖っ!! 私が非モテのモブじゃなきゃ危うく勘違いするところだった!!


「きょ、今日のジェラルド様は、何だかいつもと少し違いますね」

「そうか? ああ。もしかしたら君と文化祭を過ごせるから少々浮かれているのかもしれないな。あと、5分延長な」

「あっ!!」


 失態続きではあるが、ジェラルドさんと過ごす文化祭は始まったばかりで。

 それよりも、とにかく今は手の汗をどうにか誤魔化したい気持ちでいっぱいだったりするのであった。


 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る