第29話 文化祭に向けて


 文化祭まであと数日に差し迫ったある日。

 キャロルと私は生徒会にお手伝いに来ていた。ちなみにカイちゃんとシャーレ嬢にも声を掛けて来てもらっていた。


「アルベルト様。こちらの申請書類にサインをお願いいたしますわ」

「はい。これでいいかな」

「おいおい。この、わくわく怪奇ハウスってのは何だ? ちゃんと出展する業者に確認しに行った方がいいんじゃないのか?」

「そうだね。ガレルローザくん一緒に来てもらってもいいかな?」

「各学年のクラスでの展示や催しについてなんですけど……」

「あ~それは、こっちでやっとくからキャロルちゃんは備品の方を確認してもらっていい?」

「あの、来賓やご家族の方々への招待状なのですが……」

「わかった。こちらで確認しよう……数が多すぎるな。コレル、手伝って貰えるか?」




 ◇◇◇




「あー……大っ変だな。生徒会ってのは」

「全面的に同意いたしますわ」

「ふふっ確かにこんなに忙しいとは思わなかったね、キャロルさん」

「本当だね! 生徒会の皆さん凄いね!」


 一段落終えて私たちが談笑していると、サイラス様からの差し入れだとカフェテラスで買って来てくださった飲み物と軽食が振る舞われた。


「みんな、お疲れ様。ありがとう。好きなのを選んで食べてね」


 皆が、わっと声を上げる。

 私は皆が選んだあと最後に残った物を手に取った。


「コレル」

「はい?」

 

 ジェラルド様に声を掛けられ振り返ると、私の選んだ物とジェラルド様の持っていた物が交換される。


「ジェラルド様?」

「君はこちらを食べるといい。あと『様』じゃなくて『さん』な」


 私の手の中にはホットティーと生ハムとチーズとお野菜のたっぷり入ったサンドイッチ。

 どちらも私の好物だ。


「あ、あの……?」

「君はそれが好きなのだろう?」


 言いながら私と交換した珈琲を口に含む。


「よ、よろしいのですか?」

「ああ。私は特にこだわりがないから、なんでもいい」


 ちなみに私が手に取ったのは珈琲とスコーンだ。


「じゃあ、ジェラルド様……さんがお嫌でなければ半分こしませんか? ちょうど二つずつ入っていますし。これ、すごく美味しいのでジェラルドさんも食べてみてください!」

「……君がそう言うなら」

「はい!」


 ワックスペーパーに包まれた片方のサンドイッチをお渡しすると一緒にいただく。


「どうですか?」

「ああ。美味いな。今度からは私もこれをいただこう」

「えへへ!」


 私たちのやり取りを見ていた皆が一斉に口を開く。


「コレルちゃん、いつの間にジェラルド様とそんなに仲良しになったの?」

「コレルって呼んでたよな?」

「コレルさんも、ジェラルドさんとお呼びしておりましたわ」

「アインベルツ君、マルベレットさんと仲良くなったんだね。二人とも真面目で素直で優しい子だから、きっと気が合うんだろうね」

「へ~何か意外。ルドくんとコレルちゃんってむしろ正反対な気がするんだけど? まぁ仲がいいのは悪いことじゃないけど。でも、コレルちゃん俺のことも構ってくれないと寂しくて泣いちゃうからね~?」

「ふふっ、みんな仲が良くてなによりだよ」


 皆の言葉にたじろいでいると、ジェラルドさんに肩を抱き寄せられる。


「ああ。コレルと友人になったんだ。なぁコレル?」

「え!? は、はい。そうですね」

「そういうことで覚えておいて欲しい」


 ジェラルドさんが皆を見て何処か不敵に微笑んでいる。

 私はというと突然のことにパニックになっていた。


「(え、えっと……どういう状況なの?)」

 

 しばしの沈黙のあと最初にルーク様が口を開いた。


「……なんか、ルド君って思ってた以上に分かりやすい子だったんだね。お兄さん、ちょっと驚いちゃった」

「へぇ。なんつーか、意外だな。まぁ俺はそういう分かりやすい奴は嫌いじゃないけどな」

「わぁ! わあぁ!」

「あらあら」

「仲が良いねぇ」

「……良くわからないけど、二人はお友達になったんだ。素敵なことだね!」

 

 なんだろう、この空気。

 でも、何ていうか凄く穏やかというか明るいというか……楽しい雰囲気だ。


 まさか、生徒会室で皆さんとこんなにも和やかな時間を過ごせるなんて思ってもいなかった。


 数日後には文化祭の本番だ。

 当日が楽しみで仕方ないと、はやる胸を私は静かに押さえ付けた。

 

 

 

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