第17話 ルーク様と放課後のお茶会・後


「……は? えっ!? だ、大丈夫ですか!?」

「ごめんね、遅くなって。途中で別の子に告白されて、体だけの関係でいいならって言ったら引っ叩かれちゃった」

「……最低ですね」

「ふふっそうかな? 向こうも俺のことアクセサリー扱いしたいだけ、みたいな感じだったし別に良くない?」


「…………なるほど」


 何となく。

 本当に何となくではあるがルーク様のことが少しだけわかってきた……気がする。


「とりあえず、手当てしますね。私には治癒能力がありませんので頬の赤みを消すことくらいしか出来ませんが……」


 魔導書を呼び出し頬に手を添え頬の赤みを消してゆく。


「ありがとね、コレルちゃん」

「いえ。おモテになるのも大変ですね」

「……ほんとにそう思ってる?」

「……実際、大変ですよね?」

「……うーん。まあ、ね」


 ルーク様はこちらに向けていた体を正面に戻すと長い脚を組んでベンチの背もたれに肘を掛ける。


「コレルちゃんは何飲んでんの?」

「私はカフェラテをいただいています」

「へー美味しそ。一口ちょうだい」


 私の返事を待つことなくルーク様は私の手ごとカップを掴むとストローに口を付ける。

 何と言うか、その姿が扇情的で思わず距離を取ってしまう。


「……ん。美味しいね、これ。俺のもどーぞ?」


 目の前にカップか差し出される。このまま飲めと言うことだろうか。

 暫らく考えてからストローに口を付け飲み込むと想像を遥かに越えた甘さに思わずせてしまった。


「……げほっ、……っ、あっっま! とんでもなく甘いのですが!?」

「そう? 美味しいんだけどなぁ~キャラメルミルクティー、シロップ7倍増し」

「……シロップ7倍増し」


 恐ろしいものを口に入れてしまった。


「ふふっ、これ飲んでると女の子はみんな同じ顔をするんだよね」

「……は、はあ……」


 口直しに自分のカフェラテを飲む。

 あれ? よく考えたらこれは間接キスというものでは?

 今更そのことに気付いて思わず難しい表情になってしまう。

 そんな私の顔を見てルーク様が、ははっと声を出して笑った。


「おもしろいね、コレルちゃん。……ねぇ、コレルちゃん。俺が付き合おうって言ったら恋人になってくれる?」


 ――いきなり何だ?


 今さっき二人に告白されて断ったばかりの人が何を言っているのだろう?

 恐らく一切その気のない私をからかっているのだろうとは思うが。


「……ルーク様は恋人を作らないのでは?」


 確かゲーム内でも、いろんな子達と遊んではいるが誰かを好きになったことがなく、生まれて初めて主人公キャロルを好きになり真面目にお付き合いをする……そんな設定だったはずだ。


 ……そもそも。


「ルーク様は、私みたいなのとは絶対にお付き合いとかなさいませんよね?」

「……え?」

「あ、見た目だけではなく、私みたいな良くも悪くも真面目で男性慣れしていない……何て言うか好きになると本気というか、面倒臭いと言いますか……割り切ることの出来ないタイプ? うーん……」

「……なんで?」

「え?」

「……なんで、そう思うの?」


 思いの外、真剣な表情で尋ねられて少し驚いてしまう。


「ルーク様、真剣に告白して来た子は遊びでもいいって言われてもお断りしていたじゃないですか。相手側も完全に割り切っていて一緒に楽しんでくれるような人じゃないとルーク様はお選びにならないのかなって……」


「…………」

「……あの、私の勝手な考察ですが」


 ルーク様が髪をかきあげながらため息を吐く。


「良く見てるね、コレルちゃん」

「……え、えっと」

「その通りだよ。本気なんだろうなぁって子には手を出さない」

「…………面倒、だからですか?」


 ルーク様が何処か困ったような表情で笑う。


「だって可哀想でしょ? こんなのに引っ掛かるなんて。どっちにしろ、卒業したらそれっきりだしね」

「……それは」


 ルーク様は卒業したら、ご両親の決めた婚約者と結婚して家督を継がなければならない。

 ゲームのルーク様エンドでは駆け落ちに近い状態で二人は国を飛び出し隣国で仲睦まじく暮らすというものだった。


「……今が一番自由だから好き放題してるけど、誰かが傷付くのは違うでしょ」

「……お優しいんですね」

「――ははっ! 初めて言われたかも。……優しくはないよ、結局のところ臆病なんだよ。傷付つけるのも本気になるのも怖いんだ」

「……ルーク様」

「あ~……こんな話、誰にもするつもりなかったのになぁ」


 ……それは、きっと。


「……恐らく、私がその他大勢だからですよ。話しても問題のない相手だからです。そして、他には漏らしそうにない相手。ルーク様は賢い方ですから、分かっていて私に話をしたはずです」


 ルーク様が意外そうな目で私を見る。

 この方は私や他の生徒たちが思っているよりもずっと思慮深くお優しい方だ。


「――君は本当に良く見ているね。でも、それだけじゃないよ。君だから話したと言うより話せたんだ」

「……ルーク様」

「……ありがとう、コレルちゃん。また、こんな風に一緒にお茶会してよ」

「わ、私でよければ!」

「ははっやった! 楽しみにしてる」



 初夏の夕刻。

 太陽が傾き涼しさが訪れる頃。

 ルーク様との小さなお茶会は、想像よりもずっと楽しい時間となった。


 

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