第12話 別れたくないよっ……

 ――ある日――



「お前……浮気してるだろ?」

「っ!?」


 どうしよう。

 和馬に浮気がバレてしまった。


 どうやら、和馬は前からアタシと拓哉の関係に気づいていたらしい。


 アタシは何回も「ごめんなさいっ……」と謝ったけど、和馬は許してくれなかった。

 拓哉に脅されている、と言っても全然信じてくれなかった。


 心のどこで和馬は凄く優しいから許してくれる、と思っていた。

 けど違った。

 何回謝っても和馬はアタシのこと許してくれなかったっ。


「もう俺に話しかけるなよっ。分かったな?」


 結局、アタシは和馬に振られてしまった。

 それが辛くてバカみたいに泣いてしまう。

 

「うぅぅっ……うぅぅっ……あぁっ……あぁっ……あぁっ……」


 嫌だっ、和馬と別れたくないよっ。

 ずっと一緒にいたいよっ。


 アタシは和馬のことが大好きだ。

 世界で一番愛している。

 にも拘わらず、アタシは和馬を裏切って拓哉と浮気してしまった。


 最低だっ、アタシは本当に最低だっ……。

 今すぐ和馬に謝らないとっ。


 アタシは和馬に電話しようとした。

 けど連絡先がブロックされていたので、電話できなかった。


 う、嘘っ……連絡先とSNSまでブロックされてる。

 それが辛くてまた泣いてしまう。


 たぶん、もう和馬はアタシのこと嫌いなんだろう。

 けど、アタシはまだ和馬のことが好きだ。

 彼を愛している。


 やっぱり、和馬のこと諦められないよっ。

 



 ◇◇◇




 和馬の家にやってきた。

 早速、アタシはインターホンを押して待機する。

 しばらくしてバンっと家の扉が開かれた。

 出てきたのは一人の女性だった。


 肩まで伸びた亜麻色の髪。

 大きな瞳、

 筋の通った鼻、

 薄い唇。

 

 彼女の名前は中谷なかたに彩音あやね

 和馬のお姉ちゃんだ。


 彩音さんは凄く優しい人だ。

 けど、今の彩音さんは怖かった。

 アタシに冷たい視線を向けてくる。


「和馬から聞いたよ。アンタ、拓哉くんと浮気してたんでしょ?」


 彩音さんの言葉にビクッとアタシの身体は震える。


「はいっ……浮気しました。けど、もう二度と浮気しませんっ。だから、和馬と――」


 アタシの言葉を遮るように彩音さんは口を開いた。


「ねぇお願いっ、もう二度と和馬に関わらないでっ……。これ以上和馬を苦しめないでっ……」

「……それは無理ですっ。とりあえず、和馬と話したいんで家に入れてくださいっ」

「もう二度と和馬に関わるな、って言ってるだろ!! 何回言えば分かるんだよっ! このクソビッチがぁ!!」


 ペシンっと乾いた音が鳴り響く。

 彩音さんがアタシの頬を叩いてきたのだ。

 そのせいで頬から激しい痛みが走る。


 痛いっ、凄く痛いよっ……。

 涙目になっているアタシを、彩音さんは睨みつける。


「お前のせいだっ! お前のせいで和馬はおかしくなったっ!! アイツ、本当に真帆ちゃんのこと好きなんだよっ? アンタのために誕生日プレゼントまで用意してたんだよ! なのになんで浮気したっ! なんで拓哉くんと浮気した!!」

「ごめんなさいっ!! 本当にごめんなさいっ!! もう二度と浮気しませんっ……だからもう一回だけチャンスをくださいっ!! お願いしますっ!!」

「もう二度と浮気しません? 嘘つくなよっ、このクソビッチがぁぁ!!! どうせ、また拓哉くんと浮気するくせにっ!!」


 彩音さんが何度もアタシの頬を叩いてくる。

 うぅぅ……凄く痛いよっ。

 

 結局、和馬と話すことはできなかった。






 ◇◇◇





 もう和馬と仲直りできないのかな……? 

 元の関係に戻れないのかな?

 そんなの嫌だよっ。

 ずっと和馬と一緒にいたいよっ。

 誰にも和馬を渡したくないよっ。


 戻りたいっ。

 今すぐ過去に戻って和馬とイチャイチャしたいよ。


「和馬っ……和馬っ……和馬っ……和馬っ……和馬っ……」


 たぶん、何回謝っても和馬はアタシのこと許してくれないだろう。

 もう二度と元の関係には戻れないだろう。

 そんなこと分かってる。

 けど、諦められないよっ……。


 ずっと和馬のことを考えていると、急に拓哉が電話をかけてきた。

 ん? なんだろう?

 とりあえず、アタシは電話に出た。


「もしもし、拓哉?」

『よう、真帆。今からセックスしようぜ』

「え……? い、今から?」

『うん、今から。いいだろ?』

「……」


 ぶっちゃけ、今すぐ拓哉とエッチしたい。

 今日もたくさん気持ち良くなりたい。

 けど、もうダメだ。


 これ以上、拓哉とエッチしたら和馬に幻滅されちゃう。

 仲直りできなくなる。

 そんなの嫌だよ。

 だから、


「拓哉、もうこんなのやめよう……」

「は? 何言ってんだよ、お前……」

「これ以上エッチするのはやめよう。やっぱり、こんなの間違ってる。だからもう――」

「ふざけんなぁ!! 今すぐエッチするぞ!!」

「嫌だよ……これ以上アンタとエッチなんかしたくない。悪いけど――」


 アタシの言葉を遮るように拓哉は言った。


「ふーん……ならネットにあのハメ撮り動画を投稿するぞ? それでもいいのか?」


 拓哉の言葉にアタシは「……ぇ……」と絶望混じりの声を漏らす。

 ネットにあのハメ撮り動画を投稿する? 

 ダメっ、そんなの絶対ダメだよ。


「ネットの海にお前の淫らな姿を晒すぞ? それでもいいのか?」

「や、やめて……お願いだからやめて……」

「なら俺とセックスしろ。わかったな?」

「わ、わかったよ……けど一回だけだからね?」

「一回だけ? そんなの無理に決まってるだろ。今日も朝までするぞ。わかったな?」

「……」


 今日、アタシは拓哉と朝までエッチした。


 ごめんね、本当にごめんね、和馬……。

 

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