第4話 ごめんねっ

「おい、中谷」


 放課後、担任の先生が俺に話しかけてきた。


「はい、なんですか?」

「お前、水谷と仲良かったよな?」

「ええ、仲いいですよ。それがどうかしたんですか?」

「水谷のヤツ、今日学校欠席してるんだよ。アイツにこのプリントを届けてくれないか?」


 担任の先生はそう言って俺に一枚のプリントを差し出してくる。


 真帆が欠席だと? 


「真帆、今日学校に来てないんですか?」

「ああ、来てないぞ。体調が悪いらしい」

「ふーん、そうですか。あっ、このプリントは俺が渡しておきますね」

「ありがとう。助かるよ」


 先生からプリントを受け取ったあと、俺は学校を後にして帰り道を歩き始める。


 真帆のヤツ、今日は欠席してたのか。

 クラスが違うから知らなかったよ。


 なんてことを考えているうちに、やっと真帆の家に到着した。


 早速、俺はインターホンを押す。

 しばらくして二階の窓が開かれた。その二階の窓から真帆が顔を出す。


「あれ、和馬じゃん。どうかしたの?」

「先生から聞いたぞ。お前、今日学校休んでたんだろ?」

「うん……ちょっと体調が悪くてね」

「熱でもあるのか?」

「ううん、熱はないよ。心配しないで。あぁっあぁっ……んっんっ」


 突如、真帆が「あぁっあぁっ……」とケーキのような甘い声を出す。


 ん? なんだ? 

 なんか様子が変だな。

 

「おい、大丈夫か……?」

「だ、大丈夫だよ、気にしないで。んっんっ……あんっ……」

「……」

「んっんっ……あぁっあぁっ……ちょ、ちょっと今はダメだってぇぇ……んっんっ……あぁっあぁっ」


 また真帆は「んっんっ……」と切ない声を漏らす。

 表情はドロドロに蕩けていた。

 苦しそうにも見えるし、幸せそうにも見える。


 さっきから様子が変だな。

 まだ体調悪いのかな?


 よく観察すると、真帆の後ろに誰かいるような……。

 気のせいかな? 


「ごめん、和馬っ。まだ体調が悪いみたいっ。んっんっ……もしかしたら、明日も休むかも」

「そっか……。何かあったらすぐに言ってくれよ。俺、お前のためならなんでもするから」


 俺がそう言うと真帆は複雑な表情を浮かべる。

 ん? なんでそんな顔するんだよ。

 今日の真帆は本当に変だな。




 ◇◇◇




【水谷真帆 視点】




 現在、アタシの部屋に一人の男子生徒がいた。

 コイツの名前は村上むらかみ拓哉たくや

 アタシの元カレだ。

 

「真帆、もう一回エッチしようぜ」

「えぇぇ……さっき3回もシたじゃんっ。まだシたいの?」

「3回じゃ足りねぇよっ。あと30回はヤるぞっ」


 拓哉の言葉にアタシは目を見開く。


「さ、30回って……それ本気で言ってる?」

「ああ、俺は本気だ。ほら早くヤるぞっ」

「いやいや、30回は流石に無理だって……ねぇ今日はもうやめようよっ」


 アタシがそう言うと、拓哉は眉を顰める。


「お前、俺に逆らうつもりか? 先生にあの動画見せるぞ?」

「っ……」


 拓哉の言葉にアタシは声にもならない声を上げる。

 動揺しているアタシを見て、拓哉はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「先生があの動画見たら、お前と和馬は退学になるだろうな~。それでもいいのか?」

「や、やめて……あの動画は誰にも見せないでっ」

「なら早くエッチするぞっ」

「わ、分かったよっ。もう一回ヤればいいんでしょっ……」


 アタシと拓哉は顔を近づけてキスする。

 ただのキスじゃない。舌を絡め合うドロドロのキスだ。


 和馬以外の人とキスしてしまった。

 強烈な罪悪感を覚える。


 本当は拓哉元カレとエッチなんかしたくない。

 和馬以外の人に体を触られたくない。


 けど、拓哉元カレとエッチしないとアタシと和馬は退学になってしまう。

 それは嫌だっ。


 だからっ、


「真帆、今日も生でしようぜ」

「え……? さ、流石にそれは……」

「いいじゃん、いいじゃん。生の方が絶対気持ちいいよ?」

「はぁ……分かったよ。好きにすれば……」

「サンキュー、真帆」

「……」


 ごめんね、和馬っ。本当にごめんね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る