第24話 名前

「和馬……?」


 突如、背後から女性の声が聞こえてきた。

 ん? なんだ?


 気になった俺は身体を反転させると、私服姿の真帆が視界に入った。

 うわぁぁ……最悪だ。

 一番会いたくない奴と会っちゃったよ。


 手を繋いでいる俺と黒崎を見て、真帆は「う、嘘……」と声を漏らす。

 驚いているように見えた。


「和馬……なんで黒崎さんと手繋いでんの? アンタの彼女はその人じゃないよ? アンタの彼女はアタシだよ?」


 コイツ、何言ってんだ? 

 もう俺と真帆は恋人じゃないぞ? 


「和馬、今すぐ黒崎さんから離れてっ……アタシ以外の人とイチャイチャしないで」

「さっきから何言ってんだよ、お前。そんなの無理に決まってるだろ」


 俺がそう言うと、真帆は絶望に染まった表情を浮かべる。

 目には熱い涙が溜まっていた。


 真帆は俺から黒崎に視線を移す。


「黒崎さんっ、今すぐ和馬と別れてっ。和馬コイツはアタシのモノなのっ」

 

 真帆の言葉に黒崎は小首を傾げる。


「君、さっきから何言ってんの? 和馬くんは私のモノだよ?」

「違うっ! 和馬はアンタのモノじゃないっ!! 和馬はアタシだけのモノだもんっ!」

「いやいや、君のモノじゃないから。和馬くんは私だけのモノだもん。そうだよね、和馬くん?」

「ああ、俺は黒崎のモノだよ」


 俺はそう言って黒崎の頬にキスする。

 すると、黒崎はムクーっと頬を膨らませる。


「もうほっぺじゃなくて唇にキスしてよっ」

「はいはい、唇にキスすればいいんだな?」

「うん……」


 俺は黒崎の肩を掴んで唇にキスした。

 キスしている俺たちを見て、真帆の顔は真っ青になる。


「和馬……なんでそんな奴とキスしてんの? ダメだよっ、そんなの絶対ダメだよっ。ねぇお願いっ、アタシ以外の人とキスしないでっ」


 真帆の言葉を無視して俺たちはキスを続ける。


「和馬くんっ、好きっ、大好きっ……ちゅっ」

「俺も大好きだよ、黒崎」

「嬉しいっ……ちゅっ、ちゅっ、んっんっ……」


 俺は黒崎の腰に腕を回して熱いキスを楽しむ。


「やめてっ、お願いだからアタシ以外の人とキスしないでぇぇっ!!」


 熱いキスをしている俺と黒崎を見て、真帆はバカみたいに泣き始める。

 泣いている真帆をスルーして、黒崎と熱くて濃厚なキスを続ける。

 

「ちゅっ、ちゅっっ……んっんっ」


 やっぱり、黒崎とキスするのは最高だな。

 もう黒崎のことしか考えられないよ。


 俺たちはそっと唇を離す。

 すると、俺と黒崎の唇の間からドロッと透明な唾液の糸が引いていた。

 

「和馬くんっ……もうワタシ我慢できないよっ」

「俺も我慢できないっ……。近くのホテルでエッチしようぜ」

「うんっ」


 俺たちは指を絡めるように手を繋いでラブホテルに向かう。

 そんな俺たちを見て、真帆は慌てて口を開いた。


「ねぇ待ってよっ!? お願いだから待ってよっ!?  和馬っ!!」


 真帆の言葉を無視して俺たちは目的地に向かった。



 ◇◇◇




「はぁ…はぁ…はぁ…いっぱいしたね、和馬くん」

「だな」


 ラブホテルの中で俺たちはたくさん愛し合った。

 黒崎が魅力的過ぎて連続で3回も求めちゃったよ。

 

「ねぇ和馬くん……」

「ん? なんだよ、黒崎?」

「君はまだ真帆ちゃんのこと好きなの……?」

「はぁ……そんなわけないだろ。俺が好きなのは黒崎だけだ」

「ほ、ほんと……?」

「ああ、本当だ。お前のこと世界で一番愛してるよ」


 俺はそう言って黒崎の唇に軽くキスする。

 すぐに唇を離して黒崎を見つめる。


「和馬くんは私のこと大好きなんだよね? 真帆ちゃんより好きなんだよね?」

「当たり前だろ。真帆より黒崎の方が好きだっ」

「そっか……えへ、えへへ」


 黒崎は「えへへ」とはにかんだ笑顔を浮かべる。

 コイツの笑顔、本当に魅力的だな。


 学校では黒崎より真帆の方が可愛いと言われているけど、俺からするとこの子の方が魅力的に見える。

 自慢の彼女だ。


「ねぇ和馬くん、一つだけお願いがあるんだけど……」

「お願い? なんだよそれ?」


 俺がそう言うと、黒崎は答えた。


「私のこと名前で呼んでくれない?」

「な、名前?」

「うん……私のこと『黒崎』じゃなくて『絵里』って呼んでほしいの。ダメかな……?」

「ううん、ダメじゃないよ、絵里」

「っ……」


 俺が『絵里』と名前で呼ぶと、黒崎は声にもならない声を上げる。

 顔は真っ赤になっていた。


「も、もう一回っ! もう一回名前で呼んで!」

「絵里」

「んっ~~~!?」


 再び名前で呼ぶと、黒崎の顔は湯気が出るほど真っ赤になる。

 嬉しそうにも見えるし、恥ずかしそうにも見える。

 黒崎の反応が面白くて、思わず笑ってしまった。

 ほんと、俺の彼女は可愛いな。


「絵里、これからもよろしくな」

「うん、よろしくね、和馬くんっ」

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