第12話 結論
美都が指定した公園についた。
時計を見ると10時になろうとしている。
まずい・・・時間的にはもう少しで補導されてしまう時間になる。
「・・・。」
さして大きくはない公園。ベンチは一つしかない。そこに美都は座っていた。
そして美都はこちらに気が付き手を振る。
自分も片手をあげてそれに応える。
夜の公園に高校一年生の女子と会う。
言葉だけだとかなり危ない。
「こんばんわ。」
美都は嬉しそうに言ってくる。その姿はジーパンにトレーナーというラフな格好で、この前の遊園地とは違った印象だった。
「本当は先生に会うからちゃんとした格好したかったんですけど、あんまり気合入れるとお母さんとお父さんに怪しまれちゃうから。」
恥ずかしそうに下を向く。
「いや、そんな気合いれなくても・・・。」
「だって少しだけど先生に会うんだもん。気合入れるよ。」
そういってから美都はとっさに口を押える。
「ごめんなさい。会うんだもんとかため口使っちゃいました。」
「ああ、全然。気が付かなかった。」
「すいません。」
「いや、本当。気にしなくていいから。」
「・・・。」
少しの沈黙が流れる。
「あの、先生、時間もあんまりないんで・・・あの、先生の答えを聞かせてもらってもいいですか?」
緊張した様子で聞いてくる。
「・・・。」
言わなければいけない。ちゃんと答えを出さなければいけない。
「そうだね・・・じゃあ、答えるね。」
「・・・。」
ぎゅっと両手を握り下を向いている。けれどきちんと伝えなければいけない。
「あの、俺なりに色々考えたんだけど・・・。」
けれど私がこの言葉を発したら美都が顔をあげてこちらをジッと見つめてきた。しかも目に涙をためて。
「・・・。」
私は言葉が止まった。
たぶん美都は私の声のトーンでどんな答えを言うのか予想したのだろう。だからそんな悲しそうな顔でこちらを見てくるのだ。
本当にいいのだろうか?
このまま今私が言おうとしている言葉を伝えれば、きっと後悔するのは自分だ。
そんな気がしてしょうがなかった。
「・・・。」
その原因はもちろん目の前にいる美都だ。真っ直ぐに見つめてくるその目。ただ純粋に好きだから見つめてくる。目に少しの涙をためて。あまりにもストレートだ。
逆にこちらはどうだろうか?自分の心と何かを計っている。世間体?社会的倫理?条例?法律?色んなものを秤にかけてどこか安全な選択をしようとしている。
ごめん。
本当はこう言うつもりだった。自分なりに苦渋の決断だった。そしてその続きで「もし卒業しても・・・」みたいな事をいうつもりだった。
けれど、今の美都の表情を見ていると、自分がいかに余計な事を考えているのかと情けなくなった。
「・・・私は先生が好きです。」
何も答えない私に美都が追撃してくる。その言葉がもろに突き刺さる。心臓の鼓動が美都にも聞こえるんじゃないかというほど激しく動いている。
「先生は私が嫌いですか?」
消え入るような、自信がなさそうな声で聞いてくる。
これに「嫌いだ」と言える男はいるのだろうか?
「いや・・・嫌いじゃない。」
「じゃあ、好きですか?」
「・・・うん。」
思わず「うん」と答えてしまった。その瞬間美都の顔がパッと明るくなる。そして何も言わずに抱き着いてくる。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。」
「待ちません。だって離れたらさっきの言葉撤回しそうなんで。」
「・・・。」
「だから先生の気持ちが固まるまで離れません。」
誰かに見られるんじゃないかと周りを見回すが幸いなことに人気は少ない。
「固まりました?」
顔をうずめながら聞いてくる。
「・・・。」
ここまで来たならばこちらも腹を括らなくてはいけないのかもしれない。
「・・・分かった。気持ちは固まったよ。さっきので間違いない。」
「嬉しい・・・。」
うずめたままで返事をしてくる。
「あの、恥ずかしいから一旦離れてくれると嬉しいんだけど。」
「嫌です。」
「え?」
「恥ずかしいのはこっちも一緒です。今の顔、先生にはみせられません。だからもう少しこのままでいさせてください。」
「・・・。」
何にも言い返すこと事ができない。ジッと動かずにその場に立ち尽くす。
そして、美都の体温が伝わってくるのを感じる。たぶんこちらのドキドキも伝わっているだろう。けれどさっきまでのドキドキとは違く、どこか安心できるものがある。
「先生。」
「ん?」
「一回で良いんで”好き”って言ってください。」
「好き。」
「・・・。」
あまりの返答の速さに驚いたのだろうか、美都は抱き着いたままこちらに顔を向ける。
「早い。」
「いや、躊躇すると言えないと思ったから。」
「もう一回言ってください。」
「言ったでしょ。」
「ちゃんと聞きたいんでもう一回。」
「嫌です。」
「・・・・ケチ。」
もう一度顔をうずめてくる。
「・・・。」
たぶん、いや、きっと間違っていないと思う。今、ここで美都の事を受け入れたことは間違っていない。ただ自分の素直な気持ちの方が勝ったのだ。
それだけの事だ。
こちらもゆっくりと美都の背中に手を回す。
細く、今にも折れてしまうんじゃないだろうかと思う体。
30と16。
社会的にアウトな関係だけれども、これはもう”しょうがない”とするしかない。
「・・・。」
美都の腕に力が入るのが分かった。
こちらもそれに答えるように少し強く抱きしめる。
二人とも何も言わない時間が流れる。
――――――ようやくこの恋の結末を迎えられた気がする。
ただ、これから二人の関係で学校生活がめちゃくちゃになっていくのだけれど、それはまた別の話。
存在感0の女子生徒にハマって行く高校教師の話 ポンタ @yaginuma0126
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