第10話 結論を出さなければいけない。

 かっこいいですよね、彼。

 

 美都がそう口にする。

「ああ、まぁ・・・そうなのか。」

 こちらはこう答えるのが精一杯。昼間学校の中庭で話していた男子学生。内心は嫉妬で狂い死にそうだった。

 電話では美都の表情が見れないので余計に死にそうだ。

「もしかして何話していたか気になってますか?」

「え、いや、たまたま見かけたから。」

「へ~、じゃあいいですけど。」

「・・・。」

 試すように口調で話してくる。そしてクスッと笑う。

「大丈夫ですよ。告白されたわけじゃないし、委員会の事で少し話があったみたいなんで。」

「・・・そうか。」

「あ、でもなんかラインの交換しようみたいな事言われました。」

「・・・。」

「始めは断ったんですけど、すごく積極的で。」

「・・・それで、教えたのか?」

「フフフ、どっちだと思いますか?」

「からかうんじゃない。」

「大丈夫ですよ。教えてませんから。」

「・・・。」

「でも、今後によっては教えちゃうかもしれません。」

「今後ってなんだ。」

「それは先生次第です。」

「・・・なんか試してるみたいだな。」

「え、試してますよ。」

「え?」

「え?」

 美都にオウム返しをされ、少し沈黙が流れる。

「だって先生何も言ってきてくれないから。」

「・・・。」

 ごもっともな事を言われる。

「だからこっちも勝負に出てます。」

「勝負って。」

「だって私はすごくアピールしてるのに先生はどっちつかずな反応しかくれないんですもん。」

 美都が少し真面目なトーンになる。

「私は先生が好きです。でも先生の気持ちもちゃんと聞きたいです。それが好きでも嫌いでも構いません。」

「・・・。」

「私、無理なお願いしてますか?」

「・・・。」

 無理じゃないといえば無理じゃないし、無理と言えば無理な気がする。自分でもよくわかっていない。

「先生は立場があるし、学生と付き合うなんて出来ないのも分かってます。でも私は好きだし、先生のも好きになってもらいたいです。卒業なんて待てません。」

「・・・。」

 ごまかしてはいけない、と思わせるほど真っ直ぐに気持ちが伝わってくる。この時間を無下にしてはいけない。そう素直に思えた。

「・・・分かった。」

「・・・。」

「明日、ちゃんと私の気持ちを伝えるよ。」

「本当ですか?」

「本当。だから明日まで待って。」

「はい!」

 美都は嬉しそうに返事をする。

「でも美都の望んだ答えじゃないかもしれないぞ。」

「それでも構いません。」

「分かった。」

 この日はこれで電話は終わった。まさかこんな内容の会話になるとは思ってもみなかった。

 自分の感情と社会的な倫理と立場。

 どちらを選ぶのがのちのち後悔がないのだろうか?


 それはずっと考えてきた事だった。


 ただ、これだけはどれだけ考えても答えは出なかった。


 けれど、それは明日自分の中で答えを出さなければいけない。

 それは例え美都を傷つける結果になったとしても。

「・・・。」

 悶々とした気持ちの中そのまま目をつむり眠りに落ちた。 

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