第9話 恋敵

 美都が明らかに変わって来た。

「・・・。」

 クラスでの表情が明るくなった。以前は校則通りにスカートの丈は長かったが、今は指導されない程度にほどよく短くなっている。髪も以前は少しボサッとしていたが、今は綺麗にセットされている。そして表情のおかげだと思うが全体的にあか抜けている。

「今度さ、いい感じのカフェあるからさ、美都ちゃんも行こうよ。」

 廊下で楽しそうにクラスの女子と話している所をよく見かけるようになってきた。

 私にだけ見せていた表情を他の人にも見せている。

 これは先生として素直に嬉しい。

 これは一つの成長だろう。


 今度誉めようかな。


 なんて考えてしまう。


 しかしだ・・・。

 一つだけ心配な事がある。

「なんか最近美都明るくなったよな。」

「ああ、結構可愛いよな。」

 男子が話をしているのを耳にする。

「・・・。」

 心配だ。

 明るくなったの良いことだが、その分周囲から注目されるという事でもある。

 元が可愛いんだから当たり前だ。


 けれど美都は私の事が好きなんだぞ。


 という優越感もなくはない。

 そのうちたぶん美都は告白されるかもしれない。いや、高確率で告白されるはずだ。

 それくらい今の美都は可愛い。

「・・・。」

 でも、もし告白されたら美都はどんな返事をするんだろうか?

 もちろん振るのだろうか?

 それともものすごくタイプだったらOKするのだろうか?


 気になる・・・。


 ヤバい。

 ちょっと小耳に挟んだ男子の会話で妄想が広がってしまう。

 取られてはいけない。

 と本能で感じてしまった。

「・・・あ。」

 ふと窓から中庭を見ると美都が歩いてるのを発見する。

 どこにいるのだろうか。

 美都の姿を目で追っていると、美都が後ろを振り向く。誰かに呼び止められているようだ。

「・・・。」

 そして美都に近づいていく人間を目でとらえる。

 男子生徒だ。

 あれはクラスの男子ではない。別のクラスだろうか。何を話しているのかここからだと聞こえないし、後ろ姿だと男の表情が読めない。

「・・・。」

 しかし、美都の表情は笑顔だ。楽しそうに話している。


 ちょっと待て。ちょっと待て。ちょっと待て!!


 目線は美都と男子生徒に釘付けになっている。

 気になる気になる気になる気になる。


 もしかしたら男は美都に好意を寄せているんじゃないだろうか?

 告白か?

 それともまずは友達からか?

「・・・。」

 2人は2、3分話して別れた。

 胸がかきむしられる思いになった。


 ライバルは同級生。


 まさか高校生恋敵になるとは思わなかった。

 早くしないと美都が取られてしまう。

「・・・。」

 とりあえず何を話していたのか聞かなきゃいけない。気になってしょうがない。

 

 ただ、焦ってると思われないように聞かなくちゃ。


 それとなく、それとなく・・・。


 聞けるだろうか。

 

 

 

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