第7話 ライン

 イカれてるのかと思った。

『今度写真送るから。』

 母親が見合いしろと言ってきた。知り合いから話が来たらしい。

 電話から聞こえるその声はなんとなく嬉しそうだった。まるで良い事をしているかのようだ。

「ちょっと待ってよ。俺まだ30だよ。見合いとか早すぎない?」

『そんな事ない。あんた私が言わなかったらずっと結婚しない気だろ。』

「そんな事ないよ。」

 いや、そんな事はある。結婚なんてまるで考えてなかった。

「それにしたって・・・。」

『何?あんたに良い人がいるんなら別だけど。』

「いや・・・別にいないけど。」

『じゃあ会ってみるだけでも良いじゃない。』

「ごめん、ちょっと仕事するから切るね。ちょっとその件は考えさせて。ちゃんと返事するから。」

 そう言って電話を無理やり切った。

「なんだよ・・・。」

 まさか見合いの話を持ってくるとは思ってもみなかった。

 確かに実家は田舎だから早く結婚させたいという思考になるのかもしれない。

 だけど今は令和だぞ。昭和初期の話ではないのだ。

「・・・。」

 当然断るが、母親の「良い人」という言葉に反応してしまった。


 美都。


 即座に思い浮かんだ。

 良い人であってはいけない。好きかもしれないけど結婚なんて早すぎる。

 するとしても卒業してから。

「・・・。」

 ヤバい。勝手に想像が膨らんでしまっている。

 

 シャポ。


 ラインの通知が来る。

「先生、電話して良いですか?」


 ・・・。


 ・・・。


 ・・・。


 いいよ。


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