第4話 どうしても意識する。
数日が過ぎた。
今だに美都を意識してしまっているが、当の本人は教室で話しかけて来て以来何もアクションを起こしては来なかった。そしてとりあえず今は会わないように図書室に行かないようにしている。
「・・・。」
授業をしていても、HRをしていてもこちらを見てはいるがいたって真面目な顔をしている。だからと言ってこちらから話しかけることはしない。
―――――やっぱりからかっただけか。
女子高生の気まぐれか、と呆れる。
・・・けれど内心どこか寂しい気持ちも少なからずあった。
でもこれでいつもの日常に戻ればいい。ほんの数日前までは何事もなく平穏な生活送っていたのだ。
これでいい・・・これでいいのだ。
「あの、如月先生ちょっといいですか?」
「はい。」
職員室で如月涼子先生に話しかける。彼女は26歳で年下だがとてもしっかりしていて、それでいてとても美人な先生だ。
「あの、ちょっと学生の事について伺いたいんですけど・・・。」
「珍しいですね、藤堂先生が生徒の事でお話なんて。」
「いや、特に問題があるわけじゃないんですが、ちょっと伺ってみたくて。」
「誰ですか?」
「私のクラスの美都綾乃なんですが。」
「ああ、彼女ですか。去年私が担任でしたね。」
「それでちょっと伺ってみたいんですが、美都はどんな生徒だったんでしょうか?」
聞いてしまった。やめようやめようと思っていたけれどどうしても我慢が出来なかった。
「真面目な生徒でしたね。ちょっと引っ込み思案な所がありましたけど。」
「そうですか。あまり人と交流してなかったんですか?」
「まぁ、そうですね。私はあまりそういう姿は見たことはないですね。」
「そうですか。」
「あと本が好きでしたね。いつも読んでいたのは覚えています。」
「ああ、本ですか。それは分かります。」
図書室で会った時、カフカの「変身」を読もうとしていたのだ。読書を始めようって人間が初めのほうに読む本ではない。
「あ、でも始めからじゃなくて途中からでしたね。確か・・・10月くらいからよく読んでいたと思います。」
「10月ですか・・・。」
てっきり中学の頃から読んでいたのかと思った。なぜ10月からなのか。
「あとは、まぁ、特に特徴がない気がしますが、良くも悪くも目立たない生徒ですね。」
「分かりました。ありがとうございます。」
如月先生にお礼を伝え、自分の机に戻る。
ますます分からなくなった。真面目で引っ込み思案で目立たない子がどうして自分にだけは積極的にアプローチしてきたのか。しかもほんの一時だけ。
「・・・あ。」
棚の所に図書室から借りた本が目に入る。たぶん貸し出し期限が迫っているやつだ。
貸し出しのしおりを見ると今日になっている。
「やば・・・。」
図書室に行くのはためらうが、期限はちゃんと守っておきたい。
「・・・。」
行くしかないかと、腰を上げる。
美都に合わないようにと真っ直ぐに受付の所にいく。
「はい、大丈夫です。」
図書委員のこの言葉とともによそ見をせずに真っ直ぐ出口に向かう。美都が室内にいるのかいないのか分からないくらいに。
「・・・。」
何事もなく返し終えた。ほんの数分だったがびっしりと背中に汗をかいた。
「何してんだ、俺は・・・。」
情けなくなる。たかだか一人の女生徒に翻弄させるなんて。
「先生。」
後ろから声をかけられる。その声に背筋が凍る。たぶん、いや、間違いなく美都だ。
ゆっくりと声の方に振り返る。
「・・・。」
そこにはにっこりと笑った美都綾乃の姿があった・・・。
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