第2話 どうすればいい。

 美都綾乃・・・。

 図書室での突然の告白。家に帰ってもその事が忘れられず、そしてどう対応していいか分からずに悶々とした夜を過ごした。おかげでほとんど眠れずに完璧に寝不足だ。

「先生・・・先生。」

「あ、悪い。どこまでやったっけ。」

「え~、3ページの始めの所です。」

「ああ、そうか。悪い。」

「先生お願いしますよ~。」

 一人の男子生徒のからかいに他の生徒たちが苦笑する。新学期が始まったのにいきなり腑抜けてしまっている。

「・・・。」

 後ろの席に座っている美都をちらっと盗み見る。他の生徒とは違って微笑んでジッとこっちを見ている。

 いかん・・・。

 その表情にドキッとしてしまった。

 昨日見たときは地味で内向的そうな感じだったのに、今日は違って見える。

「・・・。」

 おかしい・・・どこかははっきり分からないが何かが違う。あまり直視できないので確認できない。

 いや、だめだ。

 たかだか16歳の生徒に告白されたからといってドキドキする30歳がどこにいる。落ち着け自分。

「はい、じゃあ今日はここまで。気を付けて帰るように。」

 チャイムが鳴り、生徒たちが帰り支度を始める。

「先生。」

 その声に心臓が高鳴る。美都だ。

「・・・なに?」

 平静を装う。

「昨日はいきなりすいませんでした。」

 美都は下を向きながらもじもじしている。その様子は昨日告白してきたとは全く見えない。

「いや、大丈夫。気にしなくていいから。」

 あまり深入りしてはいけないと、その場を立ち去ろうとする。

「あ、先生。」

「・・・どうした。」

「あの、今日髪型少しだけ変えたんですが分かりますか?」

「いや・・・ごめん。」

「そうですか。分かりました。」

 一瞬下を向いて残念そうな表情を見せたが、すぐに笑顔にかわり「それじゃあさようなら」と帰って行った。

「・・・。」

 嘘をついてしまった。めちゃくちゃ分かった。表情を隠していた前髪がなくなり、はっきりと顔が見えるようになっていた。

「・・・。」

 申し訳ないがとても可愛らしかった。少したれ気味の大きな目、長く通った鼻筋、ちょうどいいふくらみ具合の唇。

 顔が見えるだけでこんなにも違うのか、と驚かされる。

 なぜ今まで下を向きながら生活し、前髪で表情を隠していたのか不思議だ。

 だめだ、止まらない――――。

 彼女の事ばかり考えてしまう。そして胸の鼓動がどんどん早くなるのを感じる。私は彼女から昨日告白されたのだ。しかも返事はまだしなくていいと言ってきている。

「・・・どうすればいいんだよ。」

 誰もいなくなった教室で一人つぶやいた。

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