存在感0の女子生徒にハマって行く高校教師の話

ポンタ

第1話 突然の告白

 その子の名前は美都綾乃。16歳。

 華奢で真面目。眼鏡をかけて前髪が目を隠していてはっきりと表情が読み取れない。けっして目立たないタイプの女子高生。

 そんな彼女にどんどんはまって行くとは自分でも思わなかった。

 しかし・・・当たり前かもしれないが、教師と生徒の関係。恋人同士にはなってはいけない関係だ・・・。


 教師になって今年で8年目。年月が過ぎるのは早いもので年齢も30歳になってしまっていた。

 担当教科は現国。自分で言うのは何だが、決して”明るく良い先生”ではない。どちらかと言えば”暗くて内向的”な性格だと思う。

「先生さようならー。」

「さようなら・・・。」

 すれ違いに挨拶してくれる生徒にも聞こえるか聞こえないかの声量で応えてしまう。

「藤堂先生、どうですか新しい2年は?」

 職員室に帰ると後輩の高家君が話しかけてくる。彼は私とは正反対で”明るくてとても良い先生”と評判だ。

「いや、今日初日だし・・・でも特に問題はなさそうかな。」

「俺の所も問題ある生徒はいなさそうですね。でも修学旅行もあるし、2年の担任はきついっすよね。」

「ああ、まぁそうだね。」

 その後高家君はあれこれ話していたが、ほとんど何を話していたかは覚えていない。

「・・・。」

 私は何か希望をもって教職に就いたわけではなく、安定しているという事と”図書室”があるいう理由で学校の先生を選んだ。

 子供の時から本が好きだった。学生の時はよく図書館に入り浸っていた。

 そして今も放課後になったら図書室に行って本を物色する。

 一時は小説家を夢見たことがあったが、その夢も早々に諦めて今は趣味でちょこちょこ書いている程度だ。

 何事もなく淡々と過ぎていく日々が私には合っていて、そういう生活が私は好きだ。


 仕事がひと段落つき図書室に向かう。

 入るとほとんど人がいない。いるのは数人の学生で、その学生も机に向かって勉強している。

「・・・。」

 今日は何を読もうかと考えながら本棚を見て回る。

 恋愛小説かミステリーか、それともホラーか。思案している時間も心地よくて好きな時間だ。

「・・・。」

 そして外国人作家のある棚に来た時、一人の女生徒が上の方の本を取ろうと苦戦していた。踏み台があるのにと思ったが、きっと面倒なのだろう。

「どれを取ってほしいの?」

 声をかける。

「あ、えっとカフカの”変身”を。」

「変身ね・・・はい。」

 そういって本を渡すと女生徒はうつむいたまま「ありがとうございます。」と言った。

 私は役目を終えたので再び自分の本を選び始めた。

「あ、あの先生・・・。」

 本を取ってあげた女生徒が声をかけてくる。もじもじとしている

「・・・。」

「あの、私、先生のクラスの生徒なんですが分かりますか?」

「あ、ごめん。今日初日だったからまだ名前までは覚えられてないんだ。ごめん。」

「いえ、いいんです。私、あの、美都綾乃です。」

「美都さん。覚えたよ。」

 そういって再び私は自分の本を選び始めようとした。

「あの、先生・・・。」

 かすかな声でもう一度私を呼ぶ。

「・・・。」

「あの、いきなりでびっくりすると思うんですけど、あ、でも、私的には全然いきなりじゃなくて、前々から思っていた事ではあるんですが・・・。」

 彼女はしどろもどろになってうまく言葉に出来ないでいる。けれど私にはそれをどうする事も出来ない。

「あの・・・私・・・先生の事が好きです。」

「・・・。」

 言ってる意味を理解するのに時間がかかった。

「何言ってるの?」

「だから好きなんです。私本気なんです。」

 彼女はまっすぐにこちらを見てくる。その目はきらきらと輝いて嘘を言っているようには見えなかった。

「あの、えっと・・・。」

「今はお返事もらわなくて大丈夫です。徐々に私を知って行ってもらえると嬉しいです・・・それじゃあ、さようなら。」

 彼女、いや、美都さんはそう言ってそそくさと図書室から出て行ってしまった。

「・・・。」

 あまりにも突然の告白。しかも私はこの歳までまともに恋愛をしてきた事がないのだ。頭の中がパニック状態になっている。

「あ、いや、本・・・。」

 美都さんが貸し出しの手続きをしないままに出て行ってしまった事が気になってしまっていた。というかそれ以外何が起こったのかうまく把握できなかった。

 

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