腐女子ちゃんプレゼンツ!俺の楽しいハーレム学園生活~思ってたんと違う~

破蓮ヤレ

第1話 行動原理=「モテたい」だと何か悪いの?別によくね?

【プロローグ】



俺つえー主人公がチートでハーレムがうはうはなウェブ漫画。

毎日少しずつ更新されるそれを通学の電車で読むのが、俺のここ最近の日課となっていた。

プロの漫画家ではなくて、趣味でSNSに投稿している「宇宙人」さんという人物。この人の描く絵は整っていて、女の子キャラがどれも個性豊かで可愛い。お色気とギャグでバトルなそんな感じの人気漫画だ。

こういうのが良いんだよこういうのが。

今週の更新投稿のコメント欄に『ありきたりでクソつまらん。読むだけ時間の無駄』というコメントを発見し、運営へ通報するボタンをタップした。嫌なら読むな。万一本人が見て続き描かなくなったらどうしてくれんだ。まったく。そういう感想はわざわざ本人に言わず胸の内にでも留めておくのがマナーというもの。

パリン。

妙な音にふと顔を上げる。同じ学校の女子生徒…タイの色から同じ学年と思しき眼鏡の少女が立っている。その眼鏡が割れていた。えっ何、狙撃されたのこの人?きょろきょろと周囲を見回して確認するも、いつも通りの通勤通学の満員電車だ。

『まもなくー終点―、備後、備後です』

ちょうどアナウンスが流れ、もう一度少女の方を見ると、片手で鼻を覆っている、指の隙間から赤いものが零れ出ている。え?鼻血?なんで?やっぱり撃たれたの?

「おい…っ」

思わず声を出した時には既に人の群れをかき分けるようにして電車を降りて行ってしまった。

「何だったんだ…」

呆然としながら、そう呟き、俺も電車を降りる。

トカイナカとでも呼べば格好がつくかわからないが、田舎にしては混雑した改札を通り抜けた。

何という事の無いいつも通りの光景、自分と似た制服の群れが、寂れた商店街をぞろぞろと歩く。駅前唯一のコンビニは相変わらず大盛況。友人たちと合流して楽しげに会話しながら通学する。

結局その日、先程の少女の姿を見付ける事は出来なかった。

それが数日前の出来事。




****





新緑の候、とはよく言ったもので、プールサイドの葉桜に照り付ける日差しが目に痛いくらい眩しい。朝方の肌寒さは何だったのかと思いながら足だけ水に付けたまま寝転がって空を仰ぐ。

校舎の一部改装の都合で午前中のみの授業の後、午後はこうして各自クラブ活動に勤しんでいた。

プールを半分に分けるようにして女子水泳部が練習をしているのを盗み見る。元々泳ぐのが好きなのは大前提として、この為に水泳部に入ったと言っても過言ではない。無論、露骨に見たら対策されかねないのでこうして端で転がって休憩のポーズを取りながら腕の隙間から覗き見る。

おい、と真上から友人の本庄が俺の顔を覗き込む。隣に横尾がやってきて脱いだ水泳帽を俺の顔の近くで絞り始めた。やめろ、そんなもの掛けるんじゃない。本庄が口元に手を添えて小声で話し掛けてくる。

「アゲ、お前めっちゃ見られてね」

アゲとは俺のあだ名だ。『栄治→age(エイジ:年齢)→アゲ』だそうだ。英単語のテストの時になんやかんや言われてからそう呼ばれるようになった。まあ、あだ名なんて対して深い意味のないものなので、俺を呼んでるようだと思った時には反応しておけばいい。

「俺が??」

身体を起こして女子水泳部の方を見た。逆だ逆、と横尾が俺の頭を掴んで右へ向かせた。下手したら死ぬからそれもやめろ。されるがままフェンス側を見るとそこそこの至近距離で女生徒と目が合った。フェンスに噛り付くようにしてこちらをガン見していたソイツにしこたま驚いて妙な悲鳴を上げてしまった。エッ、近!怖!

「2Aの府中さんだよな、何、どういう関係よ?」

再び本庄がひそひそと耳打ちしてくるが、俺は不意にホラー映像を見せられたように心拍が上昇し、それどころではなかった。深呼吸をして落ち着かせる。

「どうもこうも…関わりなんか…」

やっとの思いでそれだけ言葉を発した時には、彼女はフェンスから離れ、顔を手で覆っていた。どこかで見たような光景にハッとする。

「…あ、前に電車で狙撃(?)されてた人――――」

眼鏡越しの府中の目が潤んでいて、今にも泣き出しそうだと思った瞬間、ボタボタと彼女の手の隙間から大量の鼻血が零れ出した。

「ヒッ…」

本庄と横尾が後退る。うっかり水に足を付けたままの俺だけが取り残された。怖い怖い何?!

「だ、大丈夫かよ…?!」

「っ…ごめんなさい…!」

そう言い残して府中は鼻血を零しながら走り去ってしまった。

府中の居た辺りには派手に血が散乱している。よく見たら血痕は点々と彼女の軌跡に沿って続いていた。どうすんだよこれ…。

「何だったんだ…うわ。血ヤバいな、大丈夫かあの人」

本庄と横尾の他に水泳部員達がわらわらと集まってきてフェンスの向こう側を覗き込んだ。

水泳部の神辺部長が俺に向かって言う。

「福山、とりあえず掃除してこい」

「ええ…」

折角の女子水泳部鑑賞タイムが唐突に終わりを告げた。

部長の指示でジャージに着替えた俺はフェンス付近に水を撒いて掃除をする事になった。

府中の事は一年から続けてクラスが違うのでよく知らないが、この理不尽で若干悪印象を持ったぐらいか。こなくそ!と雑巾を絞り、ワックスがけされた廊下に続く赤い点々の後を追うように拭いていく。…にしてもかなりの出血だな、大丈夫かコレ…。

血痕は保健室ではなく、何故か文芸部の部室へと続いていた。血塗れの手でドアを開閉したのか、かなりホラーな惨状だった。とりあえず全て拭き取り、念の為ノックしてからドアを開けた。

「失礼しまーす…」

「ファッ?なんれ…!?」

中には当然ながら血痕の主が居て、上を向いて首をトントンしていた。俺が着替えてる間、多少時間が経っているはずなのだが未だに出血してるの?そしてその応急処置は正しくない。慌てて止めに入る。どうやら文芸部員達が部活動中らしく府中から少し離れた位置で椅子に座って読書をしているのが視界に入った。

「あー鼻血ん時はそれ駄目。下向け、下。あとトントンもするな、喉に血が流れる」

「ふぇ、ふぇぇ…!?」

鼻を押さえさせたまま俯かせる。府中は顔を真っ赤にしてヘンな声を上げながら再び出血した。いや、どんだけ鼻血出すんだこの子…なんで保健室に行かないの?

というか周りは何してるんだよ、と思い至り教室にいる生徒を見る。

同じクラスの湯田村君と万能倉さんと、3年生と思しき二人が座っていた。湯田村はイヤホンを付けたまま読書に夢中なのかこちらに見向きもしない。万能倉は何故か汚物を見るような目で俺を一瞥した後、さっさと読書に戻ってしまった。部長と思しき3年女子がそれらの様子を興味深い様子で笑みを浮かべながら見ている。いや、人として明らかにおかしい連中ばっかなの?闖入してきた俺はさておき、怪我人が居るんですけど?

まともな人間が一人もいないのかと見回していると3年生の男子生徒が本を閉じてこちらに近付いて来た。

「お前、まさか、その血に触ったのか?」

「ああ、勝手に入ってすみません…え?」

何だ?触ったってか散々拭いて回ってきましたけど…。開口一番、何故そんな事を聞くのだろうこの人は。そう思いながらその男の顔を見て気付いた。

「んん?生徒会長?」

生徒会長の三次康一郎。彼は眼鏡を持ち上げ、深刻そうな表情で溜息をつく。

「…今日は駄目だな、血を出し過ぎた…。始まるぞ。ソイツから離れていろ、福山栄治」

府中はその間ずっと出血していて、床には血だまりが出来ていた。俯かせて安静にしている府中の背中をさすっていた俺は、彼女が何事かぶつぶつとつぶやいている事にようやく気付いた。

「は?始まるって何が…!」

生徒会長が言っている意味がわからず、府中の様子もおかしい。聞き返したその瞬間。

―――世界が歪む、曲がる、反転する。

胃の中が混ぜっ返されるような感覚に耐え切れず、俺はその場に膝をついた。

「なんだ、これ」

教室が紫色のフィルターが掛かったように怪しい雰囲気に包まれている。

―――ダン、ダン、ダン、ダン、ギイン!

突如、発砲音が連続して響き、耳の中でワァンと反響する。最初の音で無意識に頭を庇うように身を屈めていた。一体、何が起きている?恐る恐る様子を窺う。

「な…」

「…遅かったか」

苦々しく呟く生徒会長の手には、刑事ドラマで見るような『銃』が握られていた。

教室には文芸部の面々が転がっている。まるで撃たれて死んでしまった、とでも言うかのyおうな光景に凍り付いた。

俺の目の前では生徒会長と湯田村が拳銃を向け合って立っている。理解が追い付かず放心したまま二人を見た。

「お前まで反抗するとは思わなかったが一体どういう了見だ?」

生徒会長が怪訝そうに眉を下げたのに対し、湯田村はウンザリとした様子で片耳から垂れ下がっているイヤホンを引き抜き、ポケットに捻じ込んだ。

「…いっつもそうやって了承得ずに勝手に撃ち殺すのやめてよね。結構気分悪いんだよ?アレ」

あまりに普段通りといった調子で会話する二人に当てられ、ようやく俺は声を出した。

「ちょ…っと待てよ…!お前ら何やって…皆これ…死んで」

「福山栄治、説明が面倒なんだ後にしてくれないか」

学校の教室で、銃で撃たれて人が死んでいる。そんな状況にも関わらず、生徒会長はばっさりと俺の疑問の声を切り捨てた。

「面倒って…人が死んでるんですよ!?こんなの警察に」

『まさかの男子メンバーのみ生存…!?圧倒的BL展開キタコレ…!!』

俺が声を荒げて問い詰めようとしたその時、場違いに能天気な声が被さった。なんだこれは、府中の声か?教室内、というか頭の中に直接響いてくるような声に困惑する。

『アッ、栄治くんが困ってる!困ってます?!可愛い!栄治くんの困り顔、KAWAII!!』

…マジで何?意味が解らない上に、気持ち悪い。というかキモイ。テンションの高い府中の声

がする度に、背筋に悪寒が走る。

「何これ府中の声?ていうかキモ…」

おえ、と口に手を当てて周囲を見るが、妙な事に府中の姿は無い。生徒会長と湯田村が俺を見る。

「待て、栄治。お前今府中と会話しているのか?」

『何何?!え、まって、栄治くん私の声が聞こえるんですか?やば、推しにヘンな事言っちゃった!わすれてください!あ、その前に言い忘れてたけど、栄治くんの事めっちゃ推しです!部活頑張ってください!』

「いや、うるさ…何?全然会話になってないけどこの声、会長と湯田村には聞こえてないんですか?めちゃくちゃうるさいし意味不明なんですけど」

耳を塞いでも全く意味が無い事を承知で両耳に手を押し付ける。その様子を見て生徒会長はいったん銃を降ろした。

「府中と話せるなら、俺が皆を殺す必要は無い」

それに対して湯田村は相変わらず照準を生徒会長に合わせたままだ。

「会長聞いてた?どうせ府中とは会話にならないよ。譲ってもらえるなら今回は遠慮なく、僕が全員殺すね」

ぱん、と乾いた音が響き、生徒会長は何事か口を開く前にこと切れた。湯田村はその拳銃を今度は俺の方に向けている。クラスで一番背が低く、男子にしては可愛い感じの顔立ちをしている湯田村が、恐ろしく冷たい表情で俺を見下ろしていた。

「ちょっと待…!」

「…まあ何も説明無しは酷いか。別に福山と仲良くする気は無いけど」

恐怖で腰が抜けて動けない俺に銃口を向けたまま、湯田村は言う。

「府中はさ、ちょっと特殊でね。その血に触れたことがある人間だけを、夢みたいにありえない世界に閉じ込める事ができるんだ」

「ハア?何訳の分からない事を言って」

「うん、そういう反応だよね。ごめん、やっぱ面倒くさいから後は『このお話』が終わってから本人に聞いてよ」

本日何度目かわからない発砲音が響き、俺の視界が真っ暗になった。

『あーあ…バッドエンドばっかりだなあ…たまにはハッピーな終わりを見たいんですけど、贅沢言えませんよね。にしても湯田村くんに殺害される会長と栄治くん…めっちゃえっちでは?!』

そんな頭の悪い声が響く。

知らん女子の鼻血を掃除してたら殺されたなんて、そんな意味不明なバッドエンド、こっちから願い下げなんですけど?

そこで一度、俺の意識は途絶えた。



****



どれくらい意識を失っていたのか、目を覚ますとそこには見知らぬスマホがあった。

「あ」

わわわ、と府中がスマホを回収する。仰向けに寝ている顔の上に落とされていたら女子相手だろうと流石にキレていた自信がある。この女…何してやがったんだ?

「大丈夫ですか、栄治くん」

ハアハアと息を荒げながらスマホをしまい、俺に問いかけてくる。

府中真紀奈。言動はキモさを隠しきれないが、顔は可愛いほうだし、何より胸がでかい。紫色の柔らかなショートヘアが眼鏡のフレームに掛かっていた。それを少し耳に掛けるような仕草をしながら、猫っぽい目でじっと見られるとちょっとドキっとする。言動はキモいが。

「大丈夫も何も…さっきのは何なんだ」

俺はどうやら先程撃たれた床にそのまま転がされていたらしい。いや、ホント人間の扱いが雑だな、ここの連中は。見るとさっき殺されていた面々が何事も無かったかのようにそれぞれ読書をしている。さては狂ってんのか?

「何と言いますか…さっき湯田村くんが言った通りです。栄治くんは私の血に触ってしまったので、私の世界に巻き込まれました。皆に気をつけるように言われていたんですけど…本当にごめんなさい」

しゅんとした様子で、府中が頭を下げてくる。何故こいつが謝るんだろうか。俺を撃ち殺したのは湯田村なのに。当の本人と目が合ったが華麗にスルーされた。

代わりに生徒会長が謝罪を述べる。

「さっきはすまなかった。久々にあの世界に閉じ込められたから対処を急いだんだ」

「対処って…皆を殺す必要があったんですか?」

生徒会長が眼鏡を持ち上げる仕草をして、神妙な面持ちで言う。

「そうだ。あの状態になると何らかの『オチ』が着かなければ出られなくなるからな」

オチ…だからバッドエンドと言っていたわけか。全員死んでしまうか、または誰か一人生き残れば物語は終わるという事らしい。何故そんな事になってしまうのだろうかと府中の方を見る。

「あれは私の視点から見てる『お話』のような世界なんですけど、現状私には何も出来ないので…。血が沢山出ちゃうと勝手に始まっちゃいますし…」

なんて迷惑な。俄かに信じがたいが、先程撃ち殺された嫌な感覚を思い出して身震いする。

「だが、福山栄治。お前は府中の声が聞こえると言ったな」

生徒会長の眼鏡が蛍光灯を反射している。言ったから何だと言うのか、と訝しげに彼を見た。何だか知らないが嫌な予感しかしない。

「これからお前は文芸部に入ってもらう」

生徒会長の発言に一瞬、沈黙が流れた。ほぼ同時に府中と俺が口を開く。

「エッ!!推しが一緒の部活に???」

「は?嫌だ」

府中の声に被せるようにデカい声できっぱりと拒絶の意を示す。

「デスヨネ!嫌がる栄治くんKAWAII!」

府中はたはーといった表情で何故か嬉しそうにしている。タフかよこの女…。

「マジで嫌なんですけど…ていうか水泳部あるし」

そう、俺には女子水泳部を合法的に鑑賞するという大事な日課がある。こんな得体の知れない女と関わっている場合ではないのだ。まあ府中も胸はデカいが。あと後ろでずっと読書をしている万能倉も、多分クラスで一番胸がデカい。そちらに視線を向けると舌打ちされたので、やっぱ文芸部は無いわ。怖すぎ。

「その辺りは向こうの部長と話をつけよう」

「俺の話聞いて?」

生徒会長は勝手に話を進めるが、文芸部の面々はそもそも俺を歓迎していない。と思ったが文芸部の部長さんは何故か俺に微笑みかけてくれている。そういえばこの人も女だった…胸がほとんどないけどめっちゃいい人に違いない。

でも文芸部は無いわ。小説より漫画派だし。

「あの世界で府中の声を聞けるお前なら、もっと『違う終わらせ方』が出来るはずだ」

意味深に言い放つ生徒会長。横で何やらもじもじしている府中。終始無視して読書している文芸部員達。

なんだ、ここが地獄か。

人の話を聞かない連中に絶望していると、府中が耳打ちしてきた。

「栄治くん、女子にモテたい人ですよね?私、プロデュース出来ちゃいますよ。文芸部内限定ですけど!」

いや、地獄かよ。

というか何故そんな事まで知ってんだコイツ。確かにモテたい的な話は友達と散々したけど!クラス違うじゃん。怖いんですけど!


かくして俺は、あらゆる意味でイカレた文芸部に仲間入りする事になった。



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