第八話 結成!フォーメーション

地区大会に向けて、異空間内における基本練習を続けてきた満瑠たち。

次にやるべきことは。

「では皆さん、さっそく僕の考えてきたフォーメーションを組んでみましょう」

「フォーメーション?何なのよ、それ。バスケやサッカーじゃないんだから、そんなの要る?」

「要りますよ、だって団体戦なんですから。本番で統率が取れなきゃ、まともに戦えないじゃないですか」

「で、一体どんなフォーメーションを組もうってわけ?」

「そうですね、まず大きくわけて二通り。移動用と、待ち伏せ用。移動用は、みんなで固まって一方向に進む形で、待ち伏せ用は、一ヶ所にとどまって円陣を組み、移動中の相手を狙う形。あとは、その二つの形をそれぞれ細かく作っていけばいいんです。さっそくフォーメーションを組んで、この異空間の中を移動しましょう」


満瑠が組んだフォーメーションの通りに並んでみる、満瑠を含めた五人。

まず移動用のフォーメーションだが、先頭が幸穂、その真うしろが妹子で、その右隣が秀明、左隣が綱吉。そして妹子の真うしろ、つまりチームの殿しんがりが満瑠。

「キミが先頭じゃなくていいの?必要なら、あたしが殿を務めるけど」

「いえ、真田先輩はスピードが最も優れていますから、移動中に背後にいると、逆に動きづらいかと。それに、僕にはチーム全体を管理する役目がありますから。どの方向に移動するかは、僕が簡単に指示を出します。さっそく、試してみましょう。まずはこの森を突っ切るところから。全体、前方へ移動開始!」

こうして、隊を組んでの行進を開始。

少し湿った空気の中、針葉樹の木々の間を進んでいく。木々の上のほうは真っ白い霧で覆われており、てっぺんまではよく見えない。



そして、森を抜けたあと。

「まっすぐ進めましたね。次は、森の中で曲がってみましょう。さっき来た道を戻るほうへ、まずは前進!」

再び同じ森に入っていく五人。三十歩ほど進んだところで、

「では、ここで曲がりましょう。 全体、左へ曲がれ!」

まず先頭の幸穂が左へ曲がり、四人があとに続く。

木々の間を進んでいくと、段々と針葉樹の少ないところが見えてきた。

「さっきとは違うところから、森を抜けられますね。ではここでとまりましょう。全員、とまれ!」

満瑠の掛け声で、足をとめる五人。

「ねえ、ふと思ったんだけど」

幸穂が口を開いた。

「何でしょう?」

「全員でまとまって動いていたら、敵に見つかりやすいんじゃないの?ましてや、大声で号令なんかかけちゃってさあ」

「その点はご心配なく。のちのち改善していけばいいんです。今回は最初の一歩として、基本中の基本を組み立てているだけですから」

「そう…あたしなら、二対三の部隊に別れて、挟み撃ち作戦を行うけど。例えば、あたしと秀明、綱吉の三人で敵を追い込んで、満瑠くんと妹子ちゃんが待ち伏せ、とか」

「先輩、それは様子を見てから判断したほうがいいです。二手に別れていると、連絡を取り合うのに隙が生まれます。それに、うまく待ち合わせできるとも限らない。だから、まずは僕が全体をしっかり管理できるチームを組んで、その応用として、そういった方法を取る、というのが確実かと」

「なーるほど、じゃあ、今回はあたしのアイデアは保留ってことね」

「…なあ、俺もふと気になったことがあるんだが」

こんどは、秀明が口を開く。

「フォーメーションを組むのはいいが、どうやって練習するんだ?相手がいなきゃ、試合を再現できないだろ」

「その点もご心配なく。練習相手として、人工知能を搭載したダミーロボットを作ってもらいました。明智先生にね」

「だ、ダミーロボット?何だそれ」

秀明の声が裏返る。

「また危険なものじゃないでしょうね!?」

「ひどいなあ、真田先輩は。もうちょっと僕を信用してくれてもいいのに」

口ではこんなことを言いつつ、鼻で笑い気味の満瑠。その余裕が、幸穂の神経を逆撫でした。

「…こないだだってぇ、あんたの装置が爆発したじゃないぃ!」

閉じた歯の隙間から怒鳴り声を絞り出す幸穂。

「真田先輩、爆発したのは装置じゃなくて目の前の空間です」

「爆発してるぅのが問題だって言ってるぅでしょうがっ!!」

巻き舌で怒鳴る幸穂。

「はいはい、じゃあ次から、危険なときは危険だって言いますよ。でも、ダミーロボットは危険ではありません。テストだってしてあります。何なら今日からでも使えますよ」

「じゃあ、さっそく試してみようぜ!行進ばっかりじゃつまんねえからよぉ!」

「犬川先輩がそうおっしゃるなら。わかりました、ではリモコンを取ってきますから、皆さんはここにいてください」

リモコンは満瑠の学生鞄に入っている。異空間の外、つまり通常の空間に取りに行かなければならないのだ。



十五分後、満瑠はリモコンを持って四人のもとへ戻ってきた。

「ロボットをレベル1に設定しておきました。向こうからは攻撃せず、逃げることもしません。最初の相手にはちょうどいい」

満瑠が、リモコンの赤いボタンを押すと。


木々の間から、赤い目を光らせた銀色の顔が、ぬっと出てきた。


「うわぁっ!!何なのよあの宇宙人!!?」

「宇宙人じゃないです、ロボットです。真田先輩、少し落ち着いたらどうですか?」

「ロボットのデザインが気持ち悪いからびっくりしたんでしょうがっ!!もうちょっと何とかならなかったの!?」

「練習試合に使うロボットを、見た目なんて気にしたら仕方ないでしょう。そのうち見慣れますよ」

「でもあれだな、よく見るとシンプルで、無駄がなさそうだな、ハ、ハハハ…」

ロボットをぎこちなくフォローする秀明。

もっとも、確かに秀明の言う通り、ロボットの全体像は洗練された人間型で、ゴテゴテした余計なものは一切つけられていない。ぶっちゃけ、形は人間そっくりで、かなり引き締まっている。ただそのせいで生々しくもあり、全身が銀色にテカっているのと、ランプのように赤く光る両目が、違和感と不気味さをより一層発揮してしまってもいるのだが。

「リモコンを押すとサーバーに連絡が届き、人工知能が作動するんです。その人工知能が、前もってプログラムされている行動パターンをもとに、ロボットを遠隔操作してくれる、という仕組みです」

「何だかよくわかんねえけどすっげえや!」

とりあえずシステムをヨイショする綱吉。どうやらさっきの説明が、右耳から左耳へと通過してしまったらしい。

「さっそく練習してみましょう。まずは、待ち伏せ用のフォーメーションを組むところから。全員、輪になって並んでください」

円の中心に背を向ける形で、円形に並ぶ五人。順番は満瑠、綱吉、秀明、妹子、幸穂の順に時計回りになった。

「うーん…何だか順番がいまひとつですね。妹子、お前は僕と真田先輩の間に入れ」

「は?なんでだ?」

「上手い二人の間にいるほうが、戦いやすいだろう」

「おおなわとびみたいなものか」

言われた通りに妹子が移動すると。

円陣は、満瑠、綱吉、秀明、幸穂、妹子の順番に。

「よし、これでいい。若干アンバランスな気もしますが、最初はこれを試して、駄目だったら少しずつ調整しましょう。では次に、ロボットを狙撃しましょう。全員、異能力を起動してください」

発生装置の電源を入れる五人。それぞれの番号のボタンを押し、左腕を爆風砲に変形。

「増えてる!!」

急に叫んだ幸穂。そのせいで妹子、秀明、綱吉の三人もビクッと真上に震える。

いつの間にか、五人の周囲を無数のロボット達が取り囲んで、木々の間から赤く光る目でじっと見ているではないか。

「そりゃあ増えますよ。だってたくさん用意したんですから」

「最初から言いなさいよ、もう…」

「さっきも言いましたが、向こうからは攻撃も、逃げもしません。では、全員、用意!!…撃て!!」

満瑠の指示で、一斉に射撃を開始。

ロボット達は、攻撃が一発当たっただけで目の赤い光が消え、その場に倒れていく。


あっという間に、ロボットは全滅。

「楽勝だな」

得意気な綱吉。

「弱く設定しすぎましたかね。次はもう少し防御力を上げてみましょう」

リモコンを操作する満瑠。

再び、ロボット達の目に光が灯り、一斉に立ち上がった。


「全員、用意!!…撃て!!」

さっきと同じように、ロボットを一方的に撃っていく五人。

さすがに一発食らったぐらいでは倒れないものの、五発当たった時点で倒れて、目のランプを消灯して倒れるロボット達。


再び、ロボット軍は全滅。


「なあ、満瑠。さすがに手応えがないぜ。もうちょっと実戦に近くできないのか?」

と、秀明が提案。

「そうですね。次は、ロボットが攻撃を避けようとする設定にしましょう。さっきよりはぐんと当たりにくいはずです」

リモコンを操作。

復活するロボット軍。

「全員、撃て!!」

一斉射撃、開始。


だがこんどは、少し難易度が上がったせいか、五人の腕前にばらつきが出始めた。

満瑠は、最初はロボットに射撃をひょいひょいと避けられてしまっていたが、次第に一体ずつ、動きを読んで確実に仕留めることに成功。

幸穂は、持ち前のスピードを活かし、ロボットが動くよりも先に撃っていくことで、出だしから好調にロボットを殲滅。

あとの三人はというと。

「くそっ、さっきまでとまるで違う!!」

ロボットの動きについていけず、無駄撃ちを繰り返す秀明。

「どうやったら当たるんだ!!」

綱吉も同様。

ただ、この二人に関しては、少しはかすったり、二、三体はまぐれで倒しているのだが。

「これ、むりだろ…」

妹子に至っては、一発も当たっていない。

「一体ずつ、確実に狙えばいいんです」

アドバイスする満瑠。

「そうは言うけどよぉ、木が邪魔で…」

確かに秀明の言う通り、ロボットは木々を盾に隠れるのが上手い。


「もうやーめた」

妹子が異能力を解除し、左手を普通の手に戻してしまった。


「こら、まだあんなにいるぞ。諦めるな」

満瑠が叱る。

「みつるはズルしてるからできるんだ」

「何だと!?お前、いい加減に」

腹を立てた満瑠が、足を踏み出したとき。


「危ないっ!!」

秀明が叫ぶ。


無駄撃ちによって流れ弾を食らい続けた木々。

その中の一本が、折れて妹子のほうに倒れてきたのだ。


「…ええい!!」

左腕を剣に変形させた幸穂が、倒れてきた木を真横に薙ぎ払った。


「…た、たすかったー…」

「ふう…こういった事故を防ぐ練習も、しないといけないわね。さしもの満瑠くんも、このことは予想外だったんじゃない?」

「どのことですか?先輩」

少し機嫌の悪い満瑠。

「練習に夢中になって、危険な目に遭ってしまうことよ。まあでも、実際の試合でもこんなことにはなるでしょうし、いい勉強になったわ。最悪の事態にならなくてよかった」



こうして、ロボットを使った初日の練習は終了。

翌日は、綱吉、秀明、妹子の三人は、コツを掴むまで同じように、攻撃を避け続けるロボットを相手に練習。

少し離れた場所で、満瑠と幸穂はワンランク上の練習をすることに。具体的には、ロボットが攻撃を避けるだけでなく、反撃して爆風を放ってくる仕様にしたのだ。

最初は相手の攻撃を躱すのに精一杯な満瑠だったが、徐々に慣れてきてロボットを仕留められるようになった。

一方の幸穂は、初めから軽々とロボットを圧倒し、あっさり叩きのめしたのだが。

「ふふーん、どんなもんよ。楽勝だわ」

「それはいいんですが先輩、少し気になったことが」

「何よ?」

「ロボットをよく見ると、頭にしか攻撃が当たっていませんよね?」

「別にいいじゃない」

「よくないですよ。頭は基本的に人間が最も守ろうとする場所の一つですから、ロボットと違って簡単に避けられてしまいます。プログラムし直すように、あとで明智先生に言っておかないと」

「ふーん、で?あたしは何か問題ある?いまの話聴いてると、悪いのはロボットだって思うけど」

「もっとまんべんなく狙ったほうがいいと思います。手とか、足とか。人間を相手にする場合、相手の弱点を見極めて狙う必要がありますからね」



それから三日間はこんな調子で練習が続き、その次の日からは、綱吉と秀明が、満瑠たちと同じ練習に加わった。そして、その次の日には妹子もほかの四人と同じ練習にグレードアップ。結果、五人揃っての本格的な練習試合が行われるようになったのである。それにも慣れてくると、満瑠はロボットが自分たちを追跡するようにもプログラムして、五人で移動しながら戦う練習も取り入れた。



そして、五月上旬。

いよいよ地区大会本番である。

ほかの学校の異次元バトル部と違って、満瑠たち“大日本帝国再建学園”のメンバー五人は、土日だろうとゴールデンウィークだろうと、休まず定期的に練習を重ねてきた(一方で、部活終わりにみんなで集まって宿題に取り組んでおり、勉強のほうもバッチリ対策済みである)。

向かうところ敵なし。




…と思いきや。

実は一校だけ、満瑠たちと同じく、毎日欠かさず練習してきたガチ勢もいる。




かつて、幸穂との一対一の決闘に敗れ、その見事さに悔しい思いをさせられた、“民主復活党立高校”の“倉田”。

彼が“再建学園だけはナメるべきではない”と証言したことで、部員どもが一丸となって、努力することになったのである。

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